犯人蔵匿罪とは、罰金以上の刑に当たる罪を犯した者・拘禁中に逃走した者を蔵匿(ぞうとく)させることで成立する犯罪です。
犯人隠避罪とは、罰金以上の刑に当たる罪を犯した者・拘禁中に逃走した者を隠避(いんぴ)させる犯罪です。
両方の犯罪とも刑法103条に規定されています。
その刑事罰は、3年以下の懲役または30万円以下の罰金です。
罰金以上の刑に当たる罪とは、法定刑に罰金以上の刑罰が含まれている犯罪のことです。
したがって、犯罪のうち法定刑が拘留または科料だけが規定されている犯罪は含みません。それくらい軽微な犯罪は除くということです。
罪を犯した者の意味については、争いがあります。
学説としては、概ね以下の説があります。
①真犯人とする説。
②犯罪の嫌疑を受けて捜査・訴追されている者とする説。
③真犯人と強く疑われている者とする説。
最高裁判例は、犯罪の嫌疑によって捜査中の者を含み、捜査開始前の真犯人も含むとします。
真犯人であっても、公訴時効が完成した者、親告罪の告訴期間が過ぎた者については、訴追・処罰の可能性がないため、犯人蔵匿等罪の対象になりません。
これに対し、不起訴処分を受けたにとどまる者、まだ親告罪の告訴がされていないだけの者については、訴追・処罰の可能性があるため、犯人像匿等罪の対象になると解されています。
もう一つの対象である拘禁中に逃走した者とは、法令により拘禁された者で逃走した者のことです。
法令により拘禁された者については、被拘禁者奪取罪で規定されている「法令により拘禁された者」と同一であり、被拘禁者奪取罪で詳しく説明していますので、そちらを見ていただけたらと思います。
蔵匿とは、場所を提供して匿う(かくまう)ことです。
例えば、犯人を自宅の一室で匿うことです。
隠避とは、場所を提供して匿う以外の方法で、捜査機関などによる発見・逮捕から免れさせる一切の行為のことです。
例えば、変装道具を渡す行為、逃走資金を与える行為、身代わり犯人を立てる行為が該当します。
なお、犯人が自らの身を隠すことや、変装等の手段を使って行方をくらますことは、犯罪ではありません。
犯人蔵匿等罪は、あくまで自分以外の犯人を匿ったり、捜査機関から発見されないようにしたりすることを罰するものです。
蔵匿や隠避の行為があれば、実際は捜査機関が犯人を捕まえることにほとんど影響がなく結局逮捕されてしまったとしても、犯人蔵匿罪、犯人隠避罪が成立します。
このようなことから、犯人蔵匿罪、犯人隠避罪は抽象的危険犯とされます。
また、犯人が第三者に自分のことを匿ってくれるよう依頼し、その第三者が犯人蔵匿罪を犯した場合に、その犯人が犯人蔵匿罪の共犯(教唆犯。刑法61条)になるかどうか争いがあります。
否定説は、犯人は自ら隠れる行為が犯罪にならないことから、第三者に匿ってもらうよう依頼することも犯罪にならないとします。
これに対し、肯定説は、自ら隠れることは防御の範囲に入るとしても、第三者に犯人蔵匿罪という罪を犯させてまでの行為は防御権の濫用であるとします。
最高裁判例は肯定説をとっています。
それから、犯人蔵匿罪、犯人隠避罪について、犯人・逃走者の親族がこれらの者の利益のために犯したときは、その刑を免除できることが規定されています(刑法105条)。
犯人や逃走者の親族が犯人蔵匿罪、犯人隠避罪を犯してしまうのは、自然の人情に由来するからとされています。
親族とは、民法上親族とされる者であり、親、子、配偶者、祖父母、孫等が該当します。
このような場合、検察官は起訴せず、不起訴にすることが多いと思われます。
検察官が起訴した場合、裁判官は刑の免除(刑事訴訟法334条)を言い渡すことができます。
刑の免除は有罪判決の一つですが、刑罰は科されないものです。
ただ、刑法105条では、「刑を免除することができる」と規定されていることから、必ず免除されるとは限りません。
平成28年6月23日施行の刑法一部改正により、上記の刑罰に厳罰化されました。
以前は、2年以下の懲役または20万円以下の罰金でした。
※記事の最新の更新日 令和4年9月24日