偽計業務妨害罪

偽計業務妨害罪とは、偽計を用いて人の業務を妨害する犯無言電話.jpg
罪です。
偽計業務妨害罪は、刑法233条後段に規定されています。
偽計業務妨害罪の刑事罰は、3年以下の懲役または50万円以下の罰金となっています。

本罪は、いくつか存在する業務妨害罪の一種です。
業務妨害罪については、どのような性質の犯罪であるか、保護しようとしてい法益は何であるかについて、以下のような争いがあります。
①業務という経済的活動を保護するためであり、窃盗罪などの財産罪の1つとする。
②業務という社会的活動の自由を保護するためであり、自由に対する犯罪とする。
③本罪は信用毀損罪と同じ刑法233条に規定があることから、名誉毀損罪、信用毀損罪と類似した犯罪とする。
業務については、経済的活動に該当する場合が多いですが一般的ですが、経済的活動ではない公益活動、宗教活動も本罪の対象になり得ることから、経済的な面だけでとらえることは困難なように思われます。
業務妨害罪は、様々な側面がある犯罪のように思われます。

業務とは、職業その他の社会生活上の地位に基づき反復継続して行われる事務・事業のことであると言われています。
社会生活上の地位に基づくものであることが必要なことから、個人的な娯楽や家庭生活上の家事などは含まないとされています。
利益を目的とする事業に限らず、文化的な活動や公益的活動も業務に該当し得ます。
ただし、反復継続して行われることが必要ですので、1回きりの活動は業務に該当しないと思われます。
適法な業務であることが必要かについては、法律に違反している業務であっても、刑法上保護される業務はあるというのが一般的見解です。
ただし、ダフ屋行為などのように違法性が顕著なものについては、業務に該当しないものと解されています。
裁判例でも、都道府県知事の許可のない浴場の営業でも、業務に該当することを認めたものがあります(東京高等裁判所判決昭和27年7月3日)。

それから、公務員の公務が、本罪の業務に該当するかについても争いがあります。
大きく分けると以下の学説があります。
①全ての公務は業務に該当する。
②公務は業務に該当しない。
③強制力を行使する権力的公務は業務に該当しないが、それ以外の公務は業務に該当する。
④公務員が行う公務は業務に該当しないが、非公務員が行う公務は業務に該当する。
最高裁決定昭和62年3月12日は、③説をとり、新潟県議会の委員会が公務員の退職手当についての条例案を採決しようとした際、これに反対する労働組合員が委員会室に乱入し、バリケードを築くなどした事案において、新潟県議会の委員会の条例案の採決を行う事務は、業務に該当することを認めました。
そうすると、警察官の公務は通常、強制力を行使する権力的公務に該当すると思われますので、警察官に対して偽計により職務を妨害した場合には、偽計業務妨害罪は成立しないように考えられます。
ただし、最高裁決定平成31年2月26日は、ユーチューバーがわざと警察官がいる交番前で白い粉を落として逃走する行為をして、警察官の刑事当直業務を妨害した事案で、偽計業務妨害罪を認めました。
したがって、状況によっては警察官に対する偽計業務妨害罪が成立すると考えられています。

偽計を用いて」とは、人を欺き、誘惑し、または人の錯誤・無知を利用することです。
詐欺罪の欺罔行為より広く認められます。
偽計が認められた事案として、①デパートの布団売場で布団に16回にわたって合計469本の縫い針を混入させた場合(大阪地裁判決昭和63年7月21日)、②3か月間に970回の無言電話を中華料理屋にかけた場合(東京高裁判決昭和48年8月7日)、③駅弁屋の駅弁が不衛生であるという虚偽の葉書を鉄道局に郵送した場合(大審院判決昭和3年7月14日)、④漁場の海底に障害物を沈めて、漁網を破損された場合(大審院判決大正3年12月3日)があります。

条文上、「業務を妨害した者」と規定されていますが、判例は、業務を妨害するおそれのある行為をすれば、その時点で犯罪が成立し、実際に業務が妨害された結果は必要ないとしています。
このようなことから、判例は、本罪を危険犯と解しているものと思料されます。
これに対し、業務が妨害されたという結果がないと、犯罪が成立しないとする学説もあります。

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