債権者の一部だけを任意整理の対象にすることは、基本的に可能だと思います。
任意整理は、弁護士が債権者と交渉することであり、交渉がまとまって完済に至った場合に、問題が起きることは考えにくいし、本来どの会社とどのような交渉をするかについては自由のはずです。
ただし、債権者の一部だけを任意整理にすることについて、問題が起こる特殊な場面がいくつかあります。
1つは、過払い金請求だけを弁護士に依頼して、その他の債務については弁護士に任意整理等を依頼しないということは、原則できないことになっています。
なぜなら、弁護士会(日弁連)がそのような行為を弁護士が行うことを原則として禁止しているからです。
「債務整理事件処理の規律を定める規程」というもので禁止されています。
それは、いわゆる過払い金バブルといわれた時期に、過払い金の事件しか依頼を受けない弁護士等がいて問題視されたからです。
また、自己破産寸前のような状況下で、回収した多額の過払い金を使い切ってしまい、債権者を害することは、破産法で免責不許可事由となっています。
過払い金だけ依頼して他の債務は任意整理を依頼しないということが、絶対できないというわけではありません。
上記規程において、弁護士が当該他の債務について債務整理を行わない場合に生じる可能性のある不利益について説明し、その説明を受けても当該債務者が当該他の債務についての債務整理事件を依頼することを希望せず、かつ、その理由が不当な目的に基づくものではないと認められるときは、弁護士が過払い金だけの依頼を引き受けることが可能となっています。
上記規程を根拠に、原則として一部債権者だけを対象とする任意整理をすることはできないと記載するホームページがありますが、あくまで過払い金だけの依頼は原則できないという規定ですので、内容的に正しくないと思います。
また、一部だけ任意整理したものの、うまくいかず自己破産になった場合に、問題になることがあり得ます。
それは、債権者の一部だけ支払いをして他の支払っていない債権者との間で不公平が生じた場合であり、偏頗弁済といわれる問題です。
破産法において、支払不能になった後に一部の債権者のみに支払行為等をした場合、破産管財人がその支払行為等を否認することができ、否認された支払行為を受けた者は、支払われた金額等を返還しなければならなくなります。
また、偏頗弁済は、免責不許可事由の1つに該当するおそれがあります。
破産法の免責不許可事由の1つとして、特定の債権者に対する債務について、当該債権者に特別の利益を与える目的又は他の債権者を害する目的で、担保の供与・債務の消滅に関する行為であって、債務者の義務に属せず、またはその方法・時期が債務者の義務に属しないものをしたことと規定されています。
以上のような問題は、複雑な判断、微妙な判断が必要なことがありますので、任意整理や破産に詳しい弁護士に相談することをおすすめします。