殺人罪や強盗罪でも、執行猶予(全部)が認められる場合はあり得
ます。
ただし、かなり例外的です。
というのも、執行猶予は、3年以下の懲役・禁錮または50万円以下の罰金という比較的軽い刑の言い渡しの場合にしか認められません。
これに対し、法律上、殺人罪の刑事罰は、死刑・無期または5年以上の懲役であり、強盗罪の刑事罰は、5年以上の有期懲役とされています。
そうすると、殺人罪も強盗罪も法定刑が最低でも5年以上の懲役ですから、3年以下の懲役という執行猶予の要件を満たさないことになりそうです。
実は、殺人罪も強盗罪も、法定刑を下回る3年の懲役や2年6月の懲役が言い渡される可能性があるのです。
それは、刑の減軽というものがあるからです。
刑の減軽とは、一定の事由に該当した場合に、刑罰を法定刑より軽くすることです。
例えば、捜査機関に発覚する前に自首をした場合、刑の減軽が認められることがあります。
責任能力について、心神耗弱の場合、刑の減軽が必ずされます。
他にも、犯罪の情状に酌量すべきものがあると認められらときに、刑が減軽され得る酌量減軽というものもあります。
刑が減軽される場合、例えば、法定刑が有期懲役の場合、その長期と短期をそれぞれ2分の1にします。
例えば、強盗罪の法定刑は、5年以上の有期(つまり、20年以下の)懲役であるところ、刑の減軽が認められると、2年6月以上10年以下の懲役のなかで言い渡されることになります。
したがって、強盗罪でも、例えば被告人が自首した場合に、刑の減軽が認められると、2年6月の懲役や3年の懲役が言い渡される可能性が出てくるため、執行猶予が付く可能性もあるのです。
しかし、刑の減軽にも限界があるため、法定刑が死刑と無期懲役しかない強盗致死罪で有罪となった場合には、執行猶予が認められることはありません。
つまり、自首や心神耗弱という複数の法律上の減軽に該当する場合でも、法律上の減軽に基づく刑の減軽は1回しか認められず、さらに酌量減軽による刑の減軽が1回認められるだけとなっています。
したがって、刑の減軽は、最大2回までとなります。
そして、無期懲役から刑の減軽を一度すると、7年以上の有期(20年以下の)懲役になります。
もう一度刑の減軽をしても、3年6月以上10年以下の懲役です。
よって、一番軽い法定刑が無期懲役となっている強盗致死罪の場合、最大限刑を軽くしようとしても、3年6月より軽くなることはないのです。
そうすると、3年以下の懲役であることが必要である執行猶予の要件を満たすことはありません。
以上のように、絶対に執行猶予が認められない極めて重い犯罪は存在しますが、かなり限定的であり、可能性だけで言えば、執行猶予が認められ得る犯罪は多いことになります。
ですが、執行猶予の法律上の可能性があるからといって、実際に執行猶予が認められるとは限りません。
殺人罪や強盗罪のような重大犯罪の場合、余程のことがない限り、執行猶予が認められることがないというのが実情ではあります。