私人間効力とは、日本国憲法の基本的人権の規定が、国民と国民の私人間においても適用されるかどうかの問題のことです。
憲法は、伝統的に、国家対国民の関係において適用を受けるものとされていたことから問題とされます。
なお、憲法15条4項は、明文で私人間への適用を認めている部分がありますので、このような場合を除き、一般的に私人間での適用を認めるかどうかが問題とされます。
私人間効力が問題とされるようになったのは、資本主義の高度化にともない、社会の中に、企業、団体等の巨大な力をもった国家類似の私的団体が数多く生まれ、一般国民の人権が脅かされる事態が生じたからとされています(憲法第五版 芦部信喜著 高橋和之補訂 岩波書店 参照)。
私人間効力については、主として、以下の3つ学説があります。
①無適用説…憲法の人権規定は特別の定めのある場合を除いて私人間に適用されない。
②直接適用説…憲法の人権規定が私人間にも直接適用される。
③間接適用説…民法90条の公序良俗規定のような私法の一般条項を媒介にして、憲法の人権規定を間接的に適用する。
このうち、③間接適用説が通説判例とされています。同説は、あくまで、憲法を私人間に直接適用しません。
その根拠として、直接適用説では私的自治の原則(人が義務を負うのは自らの意思でそれを望んだときだけとする。できるかぎり個人の自由を認める考え方)が広く害されること等を挙げています。
私人間効力が問題になった有名な裁判例として、三菱樹脂事件(最大判昭和48年12月12日)があります。
この事件は、入社試験の際、在学中の学生運動歴について虚偽の申告をしたという理由で、試用期間終了後に本採用を拒否されたことを不当として裁判が提起されたものです。思想の自由、信条による差別が問題になりました。
1審、2審判決は、原告の請求を認めました。
最高裁は、社会的に許容しうる限度を超える人権の侵害があった場合は、民法90条等の適切な運用によって解決できるとして、間接適用説をとりました。
企業は雇用の自由を有し、特定の思想・信条を有する者をそのゆえをもって雇い入れることを拒んでも当然に違法とすることはできず、労働者の思想信条を調査し、申告を求めることも違法でないとし、原審に差し戻しました。