既判力とは、民事裁判において、確定した終局判決に認められる効果として、同一当事者間で同じ事柄が別の裁判で問題になったとしても、当事者は確定した終局判決で示された判断に反する主張をすることはできなかったり、裁判所も確定判決に抵触する判決をすることはできなかったりする拘束力のことです。
確定判決の通有性(通常有する性質のこと)と説明されます。既判力は、判決の効力の中心的存在です。
また、既判力のことを実体的確定力、実質的確定力ともいいます。
既判力の内容については、積極的作用と消極的作用があるものとされます。
積極的作用とは、確定判決の訴訟物についての判断を後訴裁判所が覆すことはできず、確定判決の判断を前提として判断しなければならないことです。
消極的作用とは、確定判決と矛盾する主張・証拠申出をすることを当事者が許されず、裁判所もそれについて審理することは許されないことです。
既判力内容をより詳細に検討すると以下のようになります。
①訴訟物が同一の場合
所有権確認訴訟で敗訴した原告が、再び同じ所有権確認訴訟を提起したとき、既判力の消極的作用により、原則として、裁判所は、請求棄却判決をすることになります。
金銭支払請求の前訴で勝訴した原告が、再び同一内容の後訴を提起したとき、既判力の拘束力は働きません(時効中断等の特別の事由がない限り、訴えの利益が欠けることを理由に訴え却下判決がなされます)。
②訴訟物が先決関係にある場合
所有権確認訴訟で勝訴した原告が、さらに所有権に基づく目的物の明渡請求訴訟を提起したとき、既判力の消極的作用により、原則として、裁判所は、原告の所有権の存在を前提として判決をします。
③訴訟物が矛盾関係にある場合
原告が所有権確認訴訟で勝訴したにもかかわらず、敗訴した被告が同じ目的物について自己の所有権確認訴訟を提起したとき、既判力の消極的作用により、原則として、後訴被告は、確定判決と矛盾する主張をすることが許されず、裁判所は、前訴原告の所有権の存在を前提として判決をします。
既判力の意義、目的については、以下のような学説上争いがあります。
・紛争解決という民事訴訟の制度目的に不可欠な制度的効力とする説
・制度的効力と手続保障(手続上の諸権能が与えられ当事者はそれらを行使できたこと、このことの裏返しとして当事者に自己責任が生じること)の二本立てとする説
・手続保障・自己責任のみに既判力の根拠を求める説(手続保障の第三の波学派)
既判力の有無の調査については、職権調査事項であり職権探知主義と言われます。
つまり、当事者が既判力を主張しない場合でも裁判所は職権で既判力の存在を指摘して判決の基礎とすることができるし(職権調査事項)、既判力の有無について裁判所が責任をもって確認すべき(職権探知主義)ということです。
それから、既判力を有する裁判は、原則として確定した終局判決です。中間判決(民事訴訟法245条)は既判力を有しません。
ただし、確定判決と同一の効力を有するもので、調停に変わる裁判(民事調停法17条、18条3項。家事事件手続法284条)、仲裁判断(仲裁法45条1項)等は既判力を認めるのが多数説です。
請求の放棄・請求の認諾、訴訟上の和解については既判力の有無について争いがあります。
決定には既判力が認められないのが原則ですが、訴訟費用に関する決定(民事訴訟法71条~73条)などについては既判力を認める見解があります。