請求の放棄とは、民事訴訟のなかで、原告が、自らの請求について理由がないことを認め、これをもって裁判を終わらせること(訴訟行為)です。
請求の放棄は、請求の認諾と同様に裁判所に対する一方的な意思表示です。
原告が、自らの請求の全部を放棄する場合が一般的ですが、自らの請求の一部のみを放棄することもできると言われています。ただし、一部を放棄する場合には、実務上、訴えの取下げ(請求の減縮)の形式をとることが多いです。
請求の放棄の要件は、以下のとおりです。
①原告に訴訟物についての処分権限があること。
離婚訴訟などのいわゆる人事訴訟では、人事訴訟法19条2項が請求の放棄に関する民事訴訟法266条、267条の適用を排除していますので、請求の放棄が認められません。
株式会社等に関する団体関係訴訟に関して、通説は、請求認容判決の対世効を根拠として、請求の放棄は許されるが、請求の認諾は許されないとされています。
②訴訟要件を具備していること
訴訟要件は、本案判決の要件ですが、請求の放棄に「確定判決と同一の効力」が認められる以上、類推適用されると解するのが多数説です。
ただし、訴えの利益や当事者適格等の訴訟要件は、具備する必要がないとするのが有力な見解です。
なお、請求の認諾の場合、訴訟物の内容が法律上許される権利・法律関係の主張であることが必要とされますが、請求の放棄の場合には不要です。
請求の認諾の場合には、それに基づく強制執行を裁判所の手続により行うことがあり得ますが、請求の放棄の場合にはそのようなことは無いからだと思われます。
請求の放棄の手続については、原告が口頭弁論か弁論準備手続、和解の期日において、口頭または書面で行うことになります(民事訴訟法266条1項、2項)。
請求の放棄の陳述がなされると、裁判所は、要件を具備していれば、請求の放棄がなされた旨の調書を作成します(民事訴訟法267条)。
請求の放棄の効果としては、以下のものがあります。
①訴訟終了効
請求の放棄により、訴訟が終了します。
②執行力、形成力
民事訴訟法267条において、請求の放棄が調書に記載されたときは、「確定判決と同一の効力」を有すると規定されています。
この「確定判決と同一の効力」として、執行力、形成力が認められることについては争いがありません。
つまり、強制執行が可能になります。
加えて、既判力も認められるかどうかについては争いがあります。
判例は、肯定説です。有効に請求の放棄がなされた場合に既判力が発生するとします。
ただし、詐欺、強迫、錯誤等がある場合には既判力が排除されます。
また、請求の放棄の有効性について後日争いが発生した場合の手続については、当事者が期日指定の申立をし、裁判所が期日を指定して一旦終了した裁判の再開の可否を審理するものとされています。