当事者適格とは、民事裁判において、訴訟物たる権利関係について、原告または被告として本案判決を受けることができる訴訟手続上の地位のことです。
訴訟追行権と言われることもあります。
当事者適格は、訴えを提起する原告に必要なだけでなく、訴えられた側の被告にも必要です。原告の当事者適格を原告適格と呼び、被告の当事者適格を被告適格と呼ぶことがあります。
当事者適格は、広義の訴えの利益に含まれます。狭義の訴えの利益は、請求内容が裁判によって紛争解決をするのにふさわしいものであるかが問題となるのに対し、当事者適格は、その当事者を対象とする裁判をすることが紛争解決に適切であるかの問題といえます。
当事者適格が認められない訴えは、不適法なものとして却下されます。
つまり、当事者適格は、訴訟要件の一つです。
当事者適格が認められる者が誰であるかについては、原則として訴訟物たる権利関係の存否の確定について法律上の利害関係を有する者であると言われています。その他の学説で、勝訴判決によって保護されるべき法的利益の帰属主体(原告適格者)とこの法的利益をめぐって対立関係にある者(被告適格者)とも言われています。両説とも、基本的な内容は同一だと思います。
訴えの3類型ごとに具体的に検討すると、以下のとおりです。
①給付の訴えについて
自己の請求権を主張する者が原告適格者であり、その者から義務者と主張される者が被告適格者です。
②確認の訴えについて
確認の訴えの場合に必要な訴えの利益(確認の利益)の概念のなかに、当事者適格が含まれています。したがって、確認の利益がある場合には、当事者適格も認められるのが通常です。
③形成の訴えについて
形成の訴えの場合、法律上、当事者になることができる者が規定されています。つまり、法律上形成の訴えの当事者になり得ることが規定されている者に当事者適格が認められます。
以上の当事者適格に関する原則的取扱いに対し、例外的な取扱いもあります。
①固有必要的共同訴訟の場合
利害関係人全員が当事者になることが必要な場合です。例えば、土地の共有の場合に、その土地の境界確定訴訟を隣地所有者に対して起こす場合には、共有者全員が原告になることが必要とされています。
この固有必要的共同訴訟の場合には、各自が単独では当事者適格が認められず、全員で一緒になることで当事者適格が認められることになります。
②第三者の訴訟担当の場合
特別な場合に、訴訟物たる権利関係について法律上の利害関係を有しない第三者に当事者適格が認められることがあり、これを第三者の訴訟担当と言います。
第三者の訴訟担当のなかに、法定訴訟担当と任意的訴訟担当があります。
③判決の効力が第三者に拡張される場合
判決の効力が当事者以外の第三者にも拡張される場合(そのような場合、判決に対世効があると言われます)、第三者の利益保護のため、訴訟物に最も強い利害関係を有する者に当事者適格を認めるべきと言われます。
最高裁判決昭和44年7月10日は、宗教法人の代表役員の地位の確認を求める訴えにおいては、法人を被告とすべきであり、それではじめて対世効が認められると判示しました。
④民衆訴訟の場合
民衆訴訟とは、国・地方公共団体の機関の法規に適合しない行為の是正を求める訴訟で、選挙人たる資格などの自己の法的利害とは無関係の資格で提起するものです(行政事件訴訟法5条)。
例えば、選挙無効や当選無効の確認訴訟が民衆訴訟です。
この場合には、選挙人たる資格を有する者が当事者適格者になります。