訴訟代理人とは、民事裁判において、本人の意思によって選任される任意代理人のなかで、訴訟を追行する包括的権限を有する者のことをいいます。
民事裁判において、当事者から依頼されて代理人として訴訟活動を行う弁護士は、この訴訟代理人に含まれます。
刑事裁判においても、訴訟代理人という概念があります。ただし、弁護人のことではありません。
以下においては、民事裁判における訴訟代理人について述べます。
訴訟代理人には、2種類あります。
1つは、当事者が特定の裁判について自己の意思により代理人を選任する者のことで、原則として弁護士を選任することになるもののことです。
これを訴訟委任による訴訟代理人もしくは狭義の訴訟代理人といいます。
この訴訟代理人は、原則として弁護士を選任しなければならないことが民事訴訟法54条で規定されています。ただし、同条但書で、簡易裁判所の裁判では、裁判所の許可により弁護士以外の訴訟代理人を選任することができる場合があることが規定されています。
これを弁護士代理の原則といいます。
似ている言葉で、弁護士強制主義というものがありますが、これは本人が訴訟行為をすることができず、必ず弁護士を頼まなければならないというものであり、日本の民事訴訟法では本人訴訟が可能ですので、弁護士強制主義は採られていません。弁護士代理の原則は、代理人を依頼する場合は、原則として弁護士に依頼しなければならないというものです。
もう1つは、支配人(会社法11条)に代表される法令による訴訟代人といわれるものです。
支配人は、会社法11条において、「会社に代わってその事業に関する一切の裁判上又は裁判外の行為をする権限を有する。」と規定されていることから、会社の代理人として訴訟活動をすることができるのです。
ただし、支配人という肩書の人だからといって、必ずしも会社法上の支配人とは限りません。会社法上の支配人であるためには、商業登記簿に支配人であることの記載が必要です。
支配人を選任するのは、会社の意思によることになるという意味では、弁護士を典型とする訴訟委任による訴訟代理人と同じですが、弁護士の場合は特定の裁判ごとに代理人選任の手続が必要なところ、支配人についてはそのような手続は不要です。
また、形式的に支配人を選任し、弁護士に依頼せずに訴訟代理人による訴訟行為をしているのではないかと疑われている事例が実務上ありますが、支配人は形式的に選任して登記するだけではダメであり、実質的にその支店等の一切の権限を有していることが必要とされています。ところが、実務的には、支配人を裁判の代理人だけのために選任し、弁護士代理の原則を潜脱しようとしていることが疑われている会社があります。
訴訟代理人の具体的権限については、民事訴訟法55条に規定されています。
まず、「訴訟代理人は、委任を受けた事件について、反訴、参加、強制執行、仮差押え及び仮処分に関する訴訟行為をし、かつ、弁済を受領することができる。」と規定されており(同条1項)、法律で訴訟代理人には広い権限が認められています。これは、円滑で迅速な訴訟の進行のために認められているものです。
ただし、反訴の提起や訴えの取下げ、和解、請求の放棄・認諾、控訴、上告、復代理人の選任などの当事者本人にとって影響が大きい行為については、当事者本人の特別の委任が必要とされています(同条2項)。これは、本人の意思を尊重するための規定です。実務上は、この特別の委任について、弁護士に依頼するときには、依頼時の訴訟委任状に委任事項として記載されていることが多いです。そうしないと、訴訟の進行に伴って特別の委任について、いちいち委任状を取り付ける必要があり、訴訟手続の円滑な遂行が阻害される場合があるためだと思われます。