訴訟能力(民事裁判)

訴訟能力とは、有効な訴訟行為を行い、相手方の訴訟行為に応じるのに必要な能力のことです。

訴訟能力については、刑事裁判でも問題となりますが、ここでは民事裁判での問題を取り扱います。

訴訟能力は、具体的には、当事者として訴訟を提起する、訴訟上の主張を行うなどの場合に必要なものです。訴訟能力がない者の訴訟行為は無効です。
当事者ではなく、証人尋問を受けるという場合には、訴訟能力は不要です。

民事訴訟法31条本文において、「未成年者及び成年被後見人は、法定代理人によらなければ、訴訟行為をすることができない」と規定されています。
これは、未成年者と成年被後見人には、訴訟能力がないということだと考えられています。
これをもって、未成年者と成年被後見人は、絶対的訴訟無能力者であるというようにも言われます。
未成年者と成年被後見人は、民法上、制限行為能力者と言われ、それらの者が法定代理人の同意なくして行った行為は、取消の意思表示がなされることで無効になると言われています。
民事訴訟法では、民法と若干異なり、未成年者と成年被後見人の行為は、取消の意思表示がなくても、最初から無効とされています。その理由としては、訴訟行為は裁判上の行為であり、高度で複雑なものであるから、一律に無効にした方が未成年者や成年被後見人の保護に資すると考えられたのだと思います。
ただし、未成年者については、民法上、婚姻により法律上成人と同様に取り扱われる場合(民法6条1項)、法定代理人から営業の許可を得た場合などで成人と同様の法律行為を行うことが認められており、そのような場合には有効な訴訟行為を行うことができる、つまり訴訟能力が認められています。

また、被保佐人については、民法で、訴訟行為をするためには、保佐人の同意が必要と規定されています(民法13条1項4号)。
そして、民事訴訟法28条は、訴訟能力について、民事訴訟法に特別の定めがある場合を除き、民法その他の法令に従うと規定しています。
したがって、民法の規定どおり、被保佐人については、有効な訴訟行為を行うためには保佐人の同意が必要であり、その意味で、制限的訴訟能力者と言われています。

被補助人については、裁判所が補助開始の審判において訴訟行為を行うには補助人の同意が必要と定めた場合に、補助人の同意ないかぎり訴訟行為を行うことができないことになります。これをもって、制限的訴訟能力者とされます。

ただし、民事訴訟法32条は、「被保佐人、被補助人(訴訟行為をすることにつきその補助人の同意を得ることを要するものに限る。次項及び第40条4項において同じ。)又は後見人その他の法定代理人が相手方の提起した訴え又は上訴について訴訟行為をするには、保佐人若しくは保佐監督人、補助人若しくは補助監督人又は後見監督人の同意その他の授権を要しない。」と規定しています。
つまり、被保佐人・被補助人は、相手方から訴えられた場合には、保佐人・補助人の同意なく、有効な訴訟行為を行うことができるということです。
また、訴えの取下げ、和解などの特別な訴訟行為を被保佐人・被補助人が行う場合は、特別の授権(同意)が必要とされています。

離婚訴訟などの人事訴訟は、民事訴訟法とは異なる規定となっています。
人事訴訟法13条で、民法上の行為能力の規定が適用されない旨規定されています。
つまり、未成年者であっても、訴訟能力が認められているということです。
それは、身分上の行為について、できるかぎり本人の意思を尊重すべきという趣旨と言われています。
ただし、裁判長が民法上の制限行為能力者について、必要と認めた場合は、弁護士が訴訟代理人として選任されることになっています。特別に、成年被後見人については、成年後見人が当事者になると規定されています(人事訴訟法14条1項)。

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