処分権主義とは、民事訴訟の当事者に、訴訟の開始、審判対象の特定やその範囲の限定、判決によらずに終了させる権能を認める建前のことです。
民事訴訟における大原則の一つです。
処分権主義の根拠については、処分権主義そのものを明確に規定した条文が民事訴訟法などにおいてありません。
ですが、民事訴訟における大原則として認められています。
それは、民事訴訟が対象とする私的利益について民法で私的自治の原則に委ねられていることの訴訟への反映と言われています。
処分権主義の具体的内容としては、以下のものがあります。
①訴訟の開始の段階
民事訴訟は、当事者の訴えをまってはじめて開始されます。
②審判対象特定提示について
当事者(原告)は、訴えにおいて、どのような裁判を求めるのか(対象、範囲、審判形式など)を明示することを要し、裁判所はこれに拘束されます(民事訴訟法246条)。
原告は訴状の当事者欄(民事訴訟法133条2項1号)において誰を当事者とするのか決めることができます。
また、訴状の請求の趣旨及び原因(民事訴訟法133条2項2号)において、いかなる権利関係か、給付・確認・形成のいずれの訴えの形式か、複数請求訴訟・共同訴訟を提起するか否かを選択することができます。
③訴訟の終了の段階
当事者は、その意思によって終局判決によらずに訴訟手続を終了させることができます。
その例として、訴えの取下げ(民事訴訟法261条、262条)、訴訟上の和解(民事訴訟法267条)、請求の放棄・請求の認諾(民事訴訟法266条)があります。
処分権主義の機能として、以下のものが挙げられます。
①裁判所にとって、審理の外延が原告から呈示されることにより審理の集中化を図ることができること。
②被告にとって、防御の目標を提示する手続保障の役割をもつこと。
それから、処分権主義が排除される場合というものもあります。
問題となる法律関係が個人的利益を超え、公益あるいは一般的利益に関するものである場合には、処分権主義は排除(または制限)されます。
具体的には、人事訴訟事件(婚姻、養子縁組など)、会社訴訟事件(株主総会決議取消訴訟など)において、請求の放棄・認諾、訴訟上の和解が認められない場合があります(人事訴訟法19条2項、37条、44条)。
また、境界確定訴訟においても処分権主義が排除される場面があります。