事業譲渡とは、株式会社がその事業を取引によって他の会社などに譲渡する行為のことです。
会社法が制定される前は、商法のなかで会社について規定されていましたが、そのときは営業譲渡と言われていました。会社法制定時に、会社が複数の「事業」を行う場合の総体を「営業」と呼ぶことにした結果、事業譲渡と規定されることになったと言われています。
事業譲渡については、事業を譲り渡す会社とその事業を譲り受ける会社の双方について、会社法上、異なる規制がなされています。どちらかと言えば、事業を譲り渡す会社の方が、それまでの事業の一つを失うことから、事業再編ということになり、事業譲渡による影響が大きいと考えられているので、規制も強いと言えます。
事業譲渡の対象となる「事業」の意義については、会社法が制定される前の最高裁判決(最判昭和40年9月22日)が判示している内容が踏襲されているものと理解されます。つまり、①一定の営業目的のため組織化され、有機的一体として機能する財産の全部または重要な一部を譲渡し、②これによって、譲渡会社がその財産によって営んでいた営業的活動の全部または重要な一部を譲受人に受け継がせ、③譲渡会社がその譲渡の限度に応じ法律上当然に競業避止義務を負う結果を伴うものです。
事業譲渡の手続について、事業を譲り渡す譲渡会社と事業を譲り受ける譲受会社によって異なる手続を踏む必要があります。
①譲渡会社について
原則として、株主総会の特別決議による承認が必要です(会社法467条1項1号、2号、309条2項11号)。株主総会で反対した株主には株式買取請求権が認められます(会社法469条、470条)。
また、取締役会設置会社の場合、「重要な財産の処分」として、取締役会決議が必要とされています(会社法362条4項1号)。
例外的に、株主総会の特別決議が不要な場合として、ⅰ一部の譲渡で、譲渡する資産の規模が小さい場合の簡易事業譲渡(会社法467条1項2号)、ⅱ譲受会社が特別支配会社である場合の略式事業譲渡(会社法468条1項)があります。このような手続の簡略化は、合併の場合にかなり似ています。
②譲受会社について
譲受会社が取締役会設置会社の場合、事業を譲り受けることが「重要な財産の譲受け」に該当し、取締役会決議が必要になります(会社法362条4項1号)。
また、譲渡会社の事業全部を譲り受ける場合、株主総会の特別決議が必要になります(会社法467条1項3号、309条2項11号)。反対株主には株式買取請求権が認められます(会社法469条、470条)。
ただし、ⅰ譲受会社が特別支配会社である場合の略式の事業全部譲受(468条1項。略式事業譲渡が譲受会社の側も同様になるというものです)、ⅱ譲受会社が支払または交付する対価の額が譲受会社の純資産額の20%以下の場合の簡易な事業全部譲受(会社法468条2項。簡易事業譲渡と似ていますが、内容は異なります)があります。
手続違反の効果については、株主総会決議が必要な場合にこれを経なかったときは、無効とするのが通説です。