監護者わいせつ罪とは、18歳未満の者に対し、現に監護する者であること
による影響力があることに乗じてわいせつな行為をした者に成立する犯罪のことです。
監護者わいせつ罪については、刑法179条に規定があります。
刑事罰は、6月以上10年以下の懲役となっています。強制わいせつ罪と同じです。
監護者わいせつ罪は、平成29年に刑法が一部改正された際に新しく規定された犯罪です。
以前は、親や義親が子どもに対してわいせつな行為を行った場合について、刑法上の特別な規定はありませんでした。
そうすると、13歳以上の者に対する強制わいせつ罪が成立するためには、暴行・脅迫を用いてのわいせつな行為であることが必要なため、暴行・脅迫がない場合には、処罰できない状態となっていました。
ですが、親や義親のように、子が親に依存せざるを得ない関係の場合には、親等によるわいせつ行為を拒絶したくてもできないことがあるため、そのような場合を処罰可能にしたのが監護者わいせつ罪だと思われます。
監護者わいせつ罪は、以下の要件が必要です。
①現に監護する者が
②18歳未満の者に対し
③監護者であることの影響力があることに乗じて
④わいせつな行為をしたこと
①現に監護する者とは、親や義親のように生活全般にわたって監督・保護している者のことです。
法律上の監護権を有している必要はありませんが、親子関係類似の関係が必要と考えられています。
教員は、通常、学校生活だけの関与になりますので、現に監護する者には該当しないと思いますが、全寮制の学校等の場合には、状況によって、現に監護する者に該当する可能性があると思います。
基本的には、親や義親、祖父母、親の交際相手で同居している者等を想定していると思われます。
②18歳未満の者であるという要件は、客観的ですので、特段問題ないと思いますが、監護者わいせつ罪は故意犯ですので、相手が18歳未満であることを認識していることが必要です。
ただ、監護している者が18歳未満と知らなかったというのは、通常考えにくいことですので、余程の事情がないかぎり、18歳未満であることを知らなかったという弁解が通ることはなさそうです。
なお、13歳未満の者が被害者になる場合、現に監護する者などの要件なしに強制わいせつ罪が成立しますので、実務上、監護者わいせつ罪は問題になりません。
③監護者であることの影響力があることに乗じたことが要件とされています。
ただ、影響力があることに乗じたとは、具体的にどのような場合に肯定され、どのような場合に否定されるかについて、必ずしも明確ではありません。
はっきりしていることは、被害者がわいせつ行為に同意していても、本罪は成立するということです。
例えば、「お前が学校に行けるのは、おれのおかげだから、言うとおりにしろ。」というような影響力に乗じた具体的な言動が必要ではないものと思われます。
被害者が監護者であることの影響力により拒否できない状態に置かれており、具体的言動が不要な場合も罰すべきだからです。
問題は、被害者側が真摯な恋愛感情を有していて、被害者側が積極的に性的行為をしている場合に、本罪が成立するかどうかだと思います。
この点については、現時点で明確ではありません。
当罰性は低そうですが、親のような立場の者が仮に子が恋愛感情を自分に有していたとしても、性的行為に至らないようにすべきと考えれば、被害者側が積極的だったとしても、本罪が成立する余地はあると思います。
ただ、そこまで処罰範囲を広げるのが適切かどうかの問題はあると思います。
④わいせつな行為は、いたずれに性欲を興奮・刺激させ、普通人の正常な性的羞恥心を害し、善良な性的道義観念に反する行為のことであり、性交等は監護者性交罪で処罰されますので除かれます。
基本的には、強制わいせつ罪と同様と思われます。
ただし、強制わいせつ罪は、キスも含むと解されていますが、親子間のキスが犯罪成立になるかどうかは難しい問題だと思います。
監護者わいせつ罪は、未遂犯も処罰されます。