教唆犯とは、人を教唆して犯罪を実行させた者のことです。
教唆は、「きょうさ」と読みますが、一般の方にとっては、ほとんど聞いたことのない言葉だと思います。
実際上も、教唆犯が問題になることは稀です。
教唆犯については、刑法61条などに規定があります。
教唆犯は、いわゆる共犯の1つです。
共犯とは、色々な意味をもつ言葉なのですが、最も広い意味としては、2人以上の者が共同して犯罪を実行することです。
教唆とは、人を唆(そそのか)して、その人に犯罪を実行する決意を生じさせることです。
教唆の方法については、限定されていません。
お金を払って、人に犯罪を実行させることでも、もちろん教唆犯となります。
ただし、自分自身が強盗をするつもりで、友人を強盗の共犯に誘い入れることは、人をそそのかして犯罪を実行する決意を生じさせることではありますが、自分自身も強盗を実行する場合には、自分自身が強盗の正犯(共同正犯)となりますので、教唆犯がさらに成立するわけではありません。
つまり、教唆犯が成立するのは、自分自身は犯罪を実行せず、他人だけに犯罪を実行させる場合です。
そのようなケースはとても少ないのです。
教唆が認められた裁判例として、高松高裁平成14年11月7日は、暴力団員が配下の1人に激高して暴行を加えた上で海に突き落として死なせた傷害致死罪を犯した場合に、別の配下の者に対して身代わり犯として警察に出頭するように言い、その者に自分がやったと警察に出頭させた事案について、犯人隠避罪の教唆犯を認めました。
教唆犯が成立するためには、他人に犯罪の実行の決意をさせるだけではなく、その者が実際に犯罪を実行することが必要です。
少なくとも、犯罪の実行の決意をした者が、未遂罪を犯したことが必要とされています。
刑法61条は、人を教唆して犯罪を実行させた者には、正犯の刑を科すると規定しています。
正犯とは、自ら犯罪を実行した者のことです。
ほぼ全ての犯罪について、他人に教唆行為をして、その他人が犯罪を実行した場合に、教唆した者は正犯者と同じ法定刑の範囲で処罰されます。
拘留・科料だけが刑事罰となっている犯罪については、教唆犯を処罰する旨の特別の規定がある場合に、教唆犯も処罰されます。
軽犯罪法違反には、拘留・科料だけの刑事罰が科されることになっていますが、教唆犯についても正犯に準ずるとの規定がありますので、教唆犯も処罰されることになります。
正犯の刑を科するというのは、実際に科される刑罰が正犯と全く同じという意味ではありません。
あくまで法定刑が同一であるに過ぎません。
ですから、実際に科される刑罰としては、多くの場合で、自分自身が犯罪を実行した正犯よりも、教唆犯の方が量刑は軽くなる傾向があると思われます。
教唆犯を教唆した者は、教唆犯と同じ取り扱いを受けます(刑法61条2項)。
教唆犯を教唆するというのは、例えば、「あいつに強盗をするように、お前から言っておけ。」とそそのかすということです。
これを間接教唆といいます。
さらに、再間接教唆という問題があります。
再間接教唆は、間接教唆を教唆することです。
例えば、「殺し屋Aに殺人を依頼することをBに命じておけ。」と命じることです。
再間接教唆も間接教唆と同様に処罰するかについて、肯定説と否定説があります。