死者の名誉毀損罪とは、死者の名誉を毀損する犯罪のことであり、虚偽の
事実を摘示した場合だけ処罰されることです。
刑法230条2項において、死者の名誉を毀損した者は、虚偽の事実を摘示することによってした場合でなければ、罰しないと規定されています。
死者の名誉毀損罪の刑事罰は、3年以下の懲役もしくは禁固または50万円以下の罰金です。
死者の名誉を毀損した場合については、生きている人間を対象とする名誉毀損罪とは異なり、虚偽の事実の摘示でしか処罰されません。
死者の名誉毀損罪が保護しようとしているのは、誰の名誉・利益であるかについて、以下の学説の対立があります。
①死者の名誉そのものとする説。
②遺族の名誉とする説。
③死者に対する遺族の敬愛の情とする説。
④死者に対する社会的評価としての公共的利益とする説。
支持する学者が多いのは①説であり、次に多いのは③説とされています。
①説に対しては、死者を法益の主体とするのはおかしいという批判や、本罪は親告罪のため、遺族の告訴が必要だから、遺族の法益を保護するものと考えるべきとの批判があります。
③説に対しては、遺族がいないと本罪が成立しなくなるのはおかしいという批判があります。
どちらの説も一長一短があるといえます。
死者の名誉毀損罪が、虚偽の事実の摘示でなければならないことについては、死者に関しては歴史的批判の対象になる、虚名は保護されないと考えられています。
本罪は、故意犯ですので、虚偽の事実の摘示であることについても故意が必要です。
したがって、結果的には虚偽の事実の摘示であったとしても、その摘示をした者は真実であると信じていた場合には、虚偽の事実の摘示の故意がないので、本罪は成立しません。
上述したとおり、本罪は親告罪です。
したがって、通常は死者の遺族、子孫の告訴が必要です(刑事訴訟法233条)。
ただし、遺族、子孫がいない場合には、検察官が、利害関係人の申立により告訴をすることができる者を指定することができます(刑事訴訟法234条)。
また、告訴をできる者が天皇、皇后、太皇太后、皇太后、皇嗣であるときは内閣総理大臣が代わって告訴を行います。
告訴をすることができる者が、外国の君主または大統領であるときは、その国の代表者が代わって告訴を行います。