真実性の証明による名誉棄損罪の不処罰とは、名誉毀損罪の行為が、公
共の利害に関する事実にかかり、かつ、その目的が専ら公益を図ることにあったと認める場合などに、事実が真実であることの証明があったときは、
名誉毀損罪が不処罰になることです。
真実性の証明による名誉棄損罪の不処罰については、刑法230条の2に規定されています。
名誉毀損罪は、真実であっても成立するのが原則です。
真実であっても、むやみに人の社会的評価を害する事実を公にするべきではないというのが法の理解と考えられます。
他方で、憲法上、表現の自由が保障されていることからすれば、公共の利益になる情報については、人の社会的評価を低下させる事実であっても公表することが認められるべきとも考えられます。
このように、名誉の保護と表現の自由の保障の調和のために認められたのが、真実性の証明による名誉棄損罪の不処罰です。
真実性の証明による名誉棄損罪の不処罰の基本的規定は、刑法230条の2第1項にあります。この規定では、以下の要件を満たす場合に、名誉毀損罪が不処罰になることが規定されています。
①名誉毀損行為が公共の利害に関する事実であること
②名誉毀損行為の目的が専ら公益を図ることにあること
③事実の真実性が証明されたこと
①公共の利害に関する事実とは、開示されることで公共の利益が増進される事実と解されます。
私生活(プライベート)の事実については、原則として公共の利害に関する事実ではありませんが、例外的にその人の社会的影響力・社会的活動の性質によっては、公共の利害に関する事実に該当することがあります。
最高裁判決昭和56年4月16日は、そのような趣旨の判示をし、宗教団体会長の私行について、公共の利害に関する事実に該当することを肯定しました。
②目的の公益性については、条文上「専ら」となっていますが、主として公共の利益を図る目的であれば良いと考えられています。
主たる目的が、嫌がらせの場合や被害弁償を受ける目的という場合には、目的の公益性が認められません。
③事実の真実性については、真実であることが証明されたことが必要です。
証明の程度について学説上の争いはありますが、通説は、合理的な疑いを超える程度の証明が必要と解しています。
反対する説は、通説では立証が難しい場合に酷な場合があるとし、証明の程度を低くします。
①、②、③の要件を全て満たすと、名誉毀損罪では処罰されません。
ただ、本人は真実であることを確信していた場合に、結果的に真実の証明ができなかったというだけですべて名誉毀損罪を成立させることになれば、表現の自由が委縮するおそれがあります。
そこで、最高裁判決昭和44年6月25日は、「事実が真実であることの証明がない場合でも、行為者がその事実を真実であると誤信し、その誤信したことについて、確実な資料、根拠に照らし相当な理由があるときは、犯罪の故意がなく名誉毀損罪は成立しない」と判示しました。
これにより、報道機関が十分な取材を尽くし、その取材が確実な資料、根拠に照らし相当な理由があると認められるときには、真実の証明にまで至らなくても、名誉毀損罪は成立しないということになりました。
また、公訴が提出されるに至っていない人の犯罪行為に関する事実については、公共の利害に関する事実とみなされます(刑法230条の2第2項)。
つまり、起訴前の犯罪事実については、①公共の利害に関する事実であることの要件が必要ないということです。
それから、公務員・公選による公務員の候補者に関する事実については、事実が真実であることの証明がなされれば、名誉毀損罪で処罰されません(刑法230条の2第3項)。
したがって、公務員や公務員の候補者については、①公共の利害、②目的の公益性の要件は不要ということです。
ただし、最高裁判決昭和28年12月15日は、片腕のない議員に対し、「肉体の片手落ちは、精神の片手落ちに通ずる」と発表した事案について、公務員の職務と関係ない身体的不具の事実を述べることは許されないと判示しました。