被略取者等所在国外移送罪とは、略取された者・誘拐され
た者・売買され た者を所在国外に移送する犯罪のことです。
被略取者等所在国外移送罪は、刑法226条の3に規定されています。
本罪の刑事罰は、2年以上の有期懲役となっています。
以前は、被略取者等国外移送罪という犯罪が刑法226条2項後段において規定されており、これは日本国から日本国外に移送することを処罰の対象としていました。
平成17年の刑法一部改正において、日本国以外のいずれの国であっても、その所在国から所在国外に移送する場合を処罰することにし、本罪が設けられました。
本罪は、略取や誘拐、人身売買されてしまった被害者をさらに所在国外に移送すること自体を独立の犯罪としたものです。
すでに略取・誘拐・人身売買の対象となってしまった被害者をさらに国外に移送することは、被害者の自由や平穏などの法益にとって重大なものと考えられたのだと思われます。
略取された者とは、略取行為の被害者のことです。
略取行為とは、暴行・脅迫等の強制的手段によって人を本来の生活環境から離脱させ、自己または第三者の事実的支配下に置く行為です。
どのような目的で略取が行われたかは問わないものと思われ、所在国外移送目的略取罪が成立している必要はないと思われます。
誘拐された者とは、誘拐行為の被害者です。
誘拐行為とは、欺罔や誘惑のような手段によって人を本来の生活環境から離脱させ、自己または第三者の事実的支配下に置く行為のことです。
略取の場合と同様、最初から所在国外移送目的で誘拐行為が行われた必要はないと思われます。
売買された者とは、人身売買の被害者のことです。
人身売買とは、対価の支払いによって、人に対する不法な事実的支配を引き渡すことです。
人身売買についても、所在国外移送目的人身売買罪が成立している場合に限定されません。
これらの者を所在国から所在国外に移送することで本罪が成立します。
所在国とは、その被害者が現に存在する国のことです。
上述したとおり、以前は日本国に限定されていましたが、改正により日本以外の国も含むことになりました。
国については、事実上国家としての実質を備えていれば足り、日本政府が国家として承認しているかどうかは問わないと考えられています。
移送とは、被害者の身柄を別の場所に移すことです。
所在国外とは、当該国家の領土・領海・領空の外であれば足り、必ずしも別の国の領土・領海・領空に入ることは必要ないと思われます。
被略取者等所在国外移送罪については、未遂犯も処罰されます。