所在国外移送目的略取罪とは、所在国外に移送する目的で、人を略取する犯罪です。
所在国外移送目的誘拐罪とは、所在国外に移送する目的で、人を誘拐する犯罪です。
所在国外移送目的略取罪、所在国外移送目的誘拐罪については、刑法226条で規定されています。
所在国外移送目的略取罪、所在国外移送目的誘拐罪の刑事罰については、2年以上20年以下の有期懲役となっています。
両罪については、以前、日本国外に移送する目的の場合に処罰することになっていました。
つまり、日本国内にいる人を日本国外に移送することが犯罪とされていました。
平成17年の刑法一部改正において、日本国内から日本国外に移送する場合だけでなく、日本以外の国も含む被害者の所在国からその国外(所在国外)に移送する場合も処罰することに変更され、処罰対象が拡大しました。
所在国とは、被害者が現実に所在する国です。
既に記載したとおり、所在国は日本国以外の国も該当します。
また、日本国がその国を国家として承認しているかどうかも関係ありません。
国家としての実質的な内容を備えていれば、本罪の対象になると思料されます。
例えば、台湾は、日本が国家として承認してはいません。
しかし、台湾から日本に移送する目的で人を誘拐した場合には、所在国外移送目的誘拐罪が成立するものと思料されます。
ただ、台湾と中華人民共和国は、「1つの中国」とされていますので、台湾から中華人民共和国に移送する場合に、本罪が成立するかどうかは微妙なものと思料されます。
所在国外に移送する目的と共に、営利目的やわいせつ目的もある場合には、刑事罰の重い所在国外移送目的略取罪・誘拐罪が成立するものと思われます。
古い判例ですが、大審院判決昭和12年9月30日も同様の見解をとっています。
また、本罪は、実際に国外に移送せずとも、その目的で略取・誘拐した時点で、既遂となります。
最高裁決定平成15年3月18日は、オランダ国籍で日本人の妻と婚姻していた被告人が、別居中の妻が監護養育していた2人の間の長女(当時2歳4か月)を、オランダに連れ去る目的で、長女が入院していた病院のベッド上から、両足を引っ張って逆さにつり上げ、脇に抱えて連れ去り、あらかじめ止めておいた自動車に乗せて発進させたという事案について、「被告人は、共同親権者の1人である別居中の妻のもとで平穏に暮らしていた長女を、外国に連れ去る目的で、入院中の病院から有形力を用いて連れ出し、保護されている環境から引き離して自分の事実的支配下に置いたのであるから、被告人の行為が国外移送略取罪に当たることは明らかである。そして、その態様も悪質であって、被告人が親権者の1人であり、長女を自分の母国に連れ帰ろうとしたものであることを考慮しても、違法性が阻却されるような例外的な場合に当たらないから、国外移送略取罪の成立を認めた原判断は、正当である。」と判示しました。
略取は、暴行・脅迫を手段として、人を生活環境から不法に離脱させて、自己・第三者の事実的・実力的支配化におくことです。
誘拐は、欺罔・誘惑を手段とするものをいいます。
本罪は、未遂犯も罰します。
したがって、略取や誘拐に失敗した場合も未遂犯として処罰されます。