不同意堕胎罪とは、妊娠中の女子の嘱託を受けないで、またはその女子の承諾を得ないで堕胎させる犯罪です。
不同意堕胎罪は、刑法215条1項に規定があります。
不同意堕胎罪の刑事罰は、6月以上7年以下の懲役です。
同じ6月以上7年以下の懲役が科される堕胎の罪としては、業務上堕胎致死傷罪があります。
同意堕胎罪や業務上堕胎罪は、いずれも妊娠中の女子の嘱託または承諾がある場合でしたが、女子の嘱託も承諾もない場合が、不同意堕胎罪ということになります。
なお、嘱託とは、妊婦である女子が堕胎を依頼している場合で、承諾とは、妊婦に対して堕胎することを申し込んだところ、妊婦がそれを同意することです。
女子の同意がある場合のうち、女子から堕胎の申込みがある場合と、女子から堕胎の申込みがない場合とに、分けているわけです。
妊娠中の女子の同意がない分、刑罰が重くなっています。
それは、堕胎罪の規定が、妊娠している女子の生命・身体の安全も保護しようとしているからです。
自己堕胎罪や同意堕胎罪、業務上堕胎罪については、母体保護法の存在により、かなりゆるやかに人工妊娠中絶が認められていることから、刑罰規定が死文化しているものとされ、廃止すべきという見解があります。
これに対し、不同意堕胎罪は、妊娠中の女子の同意なしに堕胎行為をするものであることから、違法性が高く、廃止すべきという主張はみられないようです。
また、不同意堕胎罪は、未遂も処罰されます(刑法215条2項)。
したがって、妊婦の同意のない堕胎手術をしようとしたところ、手術途中で発覚し、堕胎させることができなかった場合には、不同意堕胎罪の未遂犯として処罰されます。
他の自己堕胎罪や同意堕胎罪、業務上堕胎罪については、既遂の場合しか処罰されず、未遂では処罰されません。
これに関し、堕胎手術を開始した時点で、既に胎児が母体のなかで死亡していた場合が問題となります。
胎児が死亡していた場合、既に堕胎したのと同じ結果が生じていることになり、堕胎罪の既遂犯にはなり得ません。
ただし、未遂犯が成立するのではないかという争いがあります。
厳密に考える説は、既に胎児が死亡していることから、それをさらに堕胎させることは不可能とし、未遂犯も成立しないとします。
この説は、殺そうとした相手が既に死亡していた場合、殺人未遂罪にもならず、死体損壊罪になるということと同様に考えます。
古い判例において、胎児が既に死亡している場合に堕胎罪は一切成立しないと判示したものがあります(大審院判決昭和2年6月17日)。
これに対し、一般人が行為者の立場になったときに胎児が生きていると考えるなどの場合には、未遂犯の成立を認める見解もあります。