堕胎罪(自己堕胎罪)とは、妊娠中の女子が薬物を用いる方法またはその他の方法により堕胎する犯罪です。
自己堕胎罪の規定は、刑法212条に規定されています。
自己堕胎罪の刑事罰は、1年以下の懲役です。
堕胎の罪については、自己堕胎罪の刑法212条から始まり、不同意堕胎致死傷罪の刑法216条まで規定があります。
ただし、堕胎については、いわゆる母体保護法(旧優生保護法)により、一定の要件により人工妊娠中絶の適法性が認められています。
そして、適法な人工妊娠中絶は、①妊娠の継続又は分娩が身体的又は経済的理由により母体の健康を著しく害するおそれのあるもの、②暴行若しくは脅迫によつて又は抵抗若しくは拒絶することができない間に姦淫されて妊娠したもののいずれかに該当し、かつ、生命を保続することのできない時期(妊娠満22週未満の時期)で、妊婦本人及び配偶者の同意を得ること(配偶者が知れないとき等は配偶者の同意は不要)が必要とされています。
これらの要件については、特に上記①が緩やかに解釈される運用になっており、実務上、堕胎罪で検挙されることはほぼなくなっています。
我が国の人工妊娠中絶の件数は、平成26年度で、18万1905件とされています。徐々に減少する傾向にあります。
これに対し、出生数は、ほぼ100万人で、これも徐々に減少しています。
堕胎とは、自然の分娩期に先立って胎児を母体の外に排出する行為とするのが古い学説、古い判例の考え方でした。
最近は、母体内の胎児を殺すことや、自然の分娩中に出生前の胎児へ侵害を加えることも堕胎に該当するという説が多くなっています。
つまり、出生後は人に対する傷害罪や殺人罪が成立するところ、出生前の胎児に対する侵害は堕胎罪で処分するということになります。
なお、胎児への侵害行為は、胎児の生命を奪う危険性の高い行為ですが、胎児を死亡させず傷害を負わせるにとどまる行為を堕胎罪とするかについては、争いがあります。
自己堕胎罪は、妊婦が自ら堕胎することを処罰するものです。
妊婦が自ら堕胎行為を行う場合だけでなく、他人に堕胎行為をさせる場合、妊婦が他人と共同で堕胎行為を行う場合も、妊婦について自己堕胎罪が成立します。
妊婦から依頼を受けて違法な堕胎行為をした者は、同意堕胎罪などの別の犯罪が成立します。
共同の場合には、共犯になりますが、妊婦とそれ以外の者では、成立する犯罪が異なることになります。
自己堕胎罪は、妊婦が自らの身体を傷付けるという面もあり、他の堕胎の罪より、刑罰が軽くなっています。