重過失致死傷罪とは、重大な過失により人を死傷させる犯罪のことです。
重過失致死傷罪の規定は、刑法211条後段にあります。
重過失致死傷罪の刑事罰は、5年以下の懲役もしくは禁錮または100万円以下の罰金です。
業務上過失致死傷罪が、刑法211条前段に規定されていますが、重過失致死傷罪と同じ刑罰です。
重過失・重大な過失とは、何であるかについて、東京高裁判決昭和62年10月6日は、「人の死傷の結果がその具体的な状況下において通常人として容易に予見できたのに、これを怠り、あるいは、結果を予見しながら、その回避の措置をとることが同様容易であつたのに、これを怠つたというような注意義務の懈怠の著しい場合を指すものと解する」と判示しました。
要するに、単なる過失より過失の程度が重いものということだと思います。
重過失致死傷罪は、重大な過失が認められる場合に、過失致死罪や過失傷害罪より重い刑罰を科すものです。
重過失致死傷罪が認められた裁判例としては、冬場の午後5時ころに泥酔していた内妻を風呂場に追いやり、衣服を着たまま水風呂に入れさせ、午後11時ころに風呂の水を抜いただけで放置したため、翌日午前3時ころ、内妻が心臓衰弱により死亡したというものがあります(東京高裁判決昭和60年12月10日)。
また、自宅から数十メートル離れた河川敷において、勝手に鉄くいを打ち込み、鎖を用いて係留する状態で土佐犬の飼育を続けたことにより、たまたま河川敷に立ち入つた3歳の幼児がその土佐犬によつてかみつかれ、ショック死した事案においても、重過失致死罪が認められています(札幌高裁判決昭和58年9月13日)。
類似の事案で、闘犬用の2頭の犬を放し飼いにしていたところ、2頭の犬が幼児2人(6歳と5歳)を襲って1人を死亡させ、1人に傷害を負わせてしまった事案においても、重過失致死傷罪が認められています(那覇地裁沖縄支部判決平成7年10月31日)。
他の裁判例で、狩猟者が、山林において松の木の上に登っていた男性について、わずかに黒い形のものが動いているように見えたことから、これを鳩であると考え、瞬時に猟銃を発射し、傷害を負わせた事案でも、重過失致傷罪が認められています(東京高裁判決昭和35年7月27日)。この判決では、その理由として、松の木の上に人が登っているなどとは考えられなかったとしても、狙撃の対象が実は人であるにもかかわらずこれを野鳥と見まちがえることは万が一にもないようにしなければならないのは当然と判示しています。
女子大学生が、スマホをいじりながら、電動式自転車を運転し、歩行中の77歳の女性に衝突して転倒させ、その女性が頭蓋骨を骨折して2日後に死亡した事件があり、神奈川県警麻生署が女性大学生を重過失致死罪で書類送検する方針を固めたというニュースが平成29年12月14日に報道され、話題になりました。
女子大学生は、左手でスマホをいじっていただけでなく、ハンドルに添えた右手に飲料カップを持ち、左耳にイヤホンをしていた状態だったということです。