同意殺人罪とは、人をその嘱託を受け、またはその承諾を得て殺した者に成立する犯罪です。
同意殺人罪は、刑法202条に規定されています。
同意殺人罪の刑事罰は、6月以上7年以下の懲役です。
同じ刑法202条に規定されている自殺教唆罪、自殺幇助罪と同じ刑罰が規定されています。
ただし、同意殺人の方が人を殺す行為がありますので、同じ法定刑でも自殺教唆罪、自殺幇助罪より重い犯罪と考えられています。
同意殺人罪は、被害者から嘱託を受ける場合の嘱託殺人罪と承諾を得る場合の承諾殺人罪とに分けて規定されています。
嘱託とは、被害者が自分を殺すように依頼することを指します。
つまり、被害者が殺害に積極的という場合です。
承諾とは、被害者に対して殺害することを申し込んだところ、被害者がそれを同意することを指します。
こちらは、殺害者が積極的な場合です。
どちらも被害者が自らが殺されることを同意しているという点では、同様ですが、被害者が積極的な嘱託殺人罪の方が承諾殺人罪より若干軽い犯罪になると思われます。
一般的に、被害者が犯罪行為を受けることに同意している場合、犯罪が成立しない場合が多いです。
被害者が「どうぞ、あがってください。」と言っている場合に住居侵入罪は成立しませんし、被害者が「どうぞ持って行ってください。」と言っている場合に窃盗罪は成立しません。
被害者が「どうぞ私を殺してください。」と言った場合、殺人罪は成立しませんが、同意殺人罪が成立するのです。
被害者が犯罪行為を受けることに同意している場合、被害者が自らの法益を放棄・処分しているので、そのような法益を保護する必要がないため、犯罪は成立しないと一般的に説明されます。
それでも同意殺人罪が犯罪として刑罰の対象になることについては、自殺教唆罪がなぜ処罰されるかという点と重なりますので、自殺教唆罪の説明をご覧いただけたらと思います。
同意殺人罪と自殺幇助罪は、かなり似ており、その区別が微妙なところがあります。
例えば、死にたいと言っている人に、毒薬を注射するのは同意殺人罪ですが、毒薬を入手して渡すのは自殺幇助罪です。両者は大差ないものと思います。
区別の基準としては、行為者が直接手を下した場合は同意殺人罪であり、そうでない場合は自殺幇助罪になると思われます。
同意殺人罪の同意は、被害者の真意に基づくことが必要です。
したがって、死ぬことの意味を理解できていないであろう子供が同意をしたとしても、そのような同意は無効であり、単なる殺人罪が成立します。
承諾殺人罪か殺殺人罪が問題になった裁判例で、以下のような事案があります(東京高裁判決昭和61年5月1日)。
シンナー中毒で家族に暴力をふるう者が、その母親から「あんたが死んでくれれば一番みんなが助かる。シンナーでもかぶって死になさい。火をつけてやるから燃えて死になさい。」と厳しい口調で言われたのに対し、反抗的な態度で、「よし、シンナーをかぶって死んでやる。」などと言い返した後に、その被害者の兄がシンナーをかけた上で火をつけて殺害したものです。
判決では、任意かつ真意に出た承諾が認められないとされ、承諾殺人罪ではなく、殺人罪の成立が認められました。