殺人予備罪とは、殺人罪を犯す目的で、その予備行為をする犯罪です。
殺人予備罪の規定は、刑法201条にあります。
殺人予備罪の刑事罰は、2年以下の懲役です。ただし、情状により、その刑を免除することができると規定されています。
殺人予備罪は、殺人未遂罪よりも前段階の、殺人の準備行為を処罰対象とするものです。
予備行為は、例えば、殺人目的で凶器を持って被害者の家の周りで待ち伏せする行為や、無差別殺人の目的で毒物入り飲料を道ばたに置く行為が該当します。
オウム真理教による地下鉄サリン事件に関連した事案で、サリンを製造するプラントを完成させ、サリンの原材料を調達してプラントに投入し、サリンを生成しようとした行為があれば、実際にサリンを生成したかどうかとは関係なく、殺人予備罪が成立するとした判決があります(東京高裁判決平成10年6月4日)。
殺人予備罪は、殺人の目的をもっていることが必要ですが、自ら殺人を犯す目的が必要か、または他人が殺人を犯すことの準備行為であることの認識があれば足りるかについて、学説上の争いがあります。
学説上は、自ら殺人を犯す目的が必要とする説の方が多数と思われます。
この点、上記東京高裁判決平成10年6月4日は、自ら殺人を犯す目的は不要とし、他人が殺人を犯す準備行為であることの認識があれば足りると判示しました。
他人の犯罪行為の予備行為のことを他人予備と言いますが、他人予備でも殺人予備罪が成立することが認められたものです。
殺人の目的で予備行為を行ったが、自らの意思で殺人を犯すのを中止した場合について、未遂犯の場合に認められる刑の減軽・免除(これを中止犯または中止未遂と言います。)を認めるべきかどうかについても、学説上の争いがあります。
この点、予備行為より進んだ未遂犯では自らの意思で中止すれば刑の減軽・免除が必ず認められるのだから、予備行為でも刑の減軽・免除を認めるべきとする説があります。
しかしながら、判例は、予備罪の場合に自らの意思で中止したとしても、未遂犯と同様に刑の減軽・免除を必ず認めるわけではないとしています(大審院判決大正5年5月4日)。