(旧)強姦罪とは、暴行・脅迫を用いて13歳以上の女子を姦淫した者、または13歳未満の女子を姦淫した者に成立する犯罪のことです。
(旧)強姦罪の規定は、刑法177条にありましたが、平成29年の刑法一部改正により、(旧)強姦罪は、内容を大きく変更した強制性交等罪になりました。
改正後の刑法は、平成29年7月13日に施行されています。
ですが、改正刑法施行前の行為については、(旧)強姦罪の適用を受け、強制性交等罪の適用を受けませんので、以下において、(旧)強姦罪について、説明します。
(旧)強姦罪の刑事罰は、3年以上20年以下の懲役(有期懲役)です。
(旧)強姦罪という言葉については、テレビニュースの報道などで、婦女暴行と読み替えられることがあります。
強姦という言葉の響きが強いことや、被害者への配慮のためと思われます。
(旧)強姦罪については、条文の記載から、被害者は女子に限定されています。
そして、女子を姦淫することは男子にしかできませんので、強姦罪の主体は男子だけであり、身分犯とされています。
ただし、女性が男性と共謀して、その男性が別の女子に対する姦淫行為をした場合には、男性と共謀した女性も強姦罪の共犯者として処罰されることになります。
なお、強姦罪の被害者が女子に限定されている点について、憲法14条1項で保障されている法の下の平等に反するのではないかという点が争われた裁判において、最高裁は憲法違反にならないと判示しています(最高裁判決昭和28年6月24日)。
姦淫とは、男性生殖器を女性生殖器に挿入することをいいます。少なくとも男性生殖器の一部が挿入されることが必要とされています。
なお、射精したことは不要です。
13歳以上の女子に対しては、暴行・脅迫を用いたことが必要です。
暴行とは、人の身体に向けられた有形力の行使のことであり、脅迫とは、相手方を畏怖させるに足りる害悪の告知のことです。
また、暴行・脅迫の程度として、被害者の反抗を著しく困難にする程度のものであることが必要とするのが通説判例の見解です。
13歳未満の女子に対しては、暴行・脅迫を用いたことは不要です。
13歳未満の女子の場合は、姦淫することについて女子の同意があったとしても、強姦罪が成立します。
この点については、強制わいせつ罪と同様の処理です。
それから、夫婦間で強姦罪が成立するかという問題があります。
この点については、強姦罪が成立しうるとするのが学説の多数の見解です。
また、裁判例で、夫婦間で強姦罪の成立を認めたものもあります(広島高裁松江支部判決昭和62年6月18日)。ただし、この裁判の事案は、夫が友人と共に妻を輪姦したというものであり、通常の夫婦間の性交渉とは、状況が異なります。
(旧)強姦罪は、未遂犯も処罰されます(旧刑法179条)。
どの時点で、未遂犯として処罰されるかについては、13歳以上の女子に対する場合は、暴行・脅迫の開始時点とされています。
ただ、判例は、それだけでなく、強姦に至る客観的な危険性を必要と考えていると言われています。
例えば、男2人が強姦目的で抵抗する女性をダンプカーの運転席に引きずり込んだ時点で、判例は未遂犯として処罰される実行の着手を認めています(最高裁決定昭和45年7月28日)。この時点では、まだ姦淫行為に直接向けられた暴行・脅迫は開始されていないと考えることもできますが、ダンプカーの車内に引きずり込まれれば、強姦に至る客観的な危険性が認められるものと考えられたものと思われます。
これに対し、強姦目的で女性をタクシーに引きずり込んで暴行を加えたが、車内には他にタクシー運転手や女性2名も同乗していた事案では、強姦罪の未遂犯として処罰することはできないと判示されたものがあります(大阪地裁判決昭和61年3月11日)。この時点では、まだ強姦に至る客観的な危険性はないと判断されたのだと思われます。
13歳未満の女子に対する場合には、姦淫行為の開始時点で、未遂犯として処罰されることになると思います。
強姦罪は、未遂も含め、親告罪であり、告訴がなければ起訴できません(旧刑法180条)。