強制わいせつ罪

強制わいせつ罪とは、①13歳以上の者に対し、暴行または脅迫を用いてわいせつな行為をした場合、②13歳未満の者に対し、わいせつな行為をした場合に成立する犯罪のことです。

強制わいせつ罪は、刑法176条に規定があります。
強制わいせつ罪の刑事罰は、6月以上10年以下の懲役です。

強制わいせつ罪の刑法176条は、「第二十二章 わいせつ、姦淫及び重婚の罪」において規定されています。
この章には、公然わいせつ罪わいせつ物頒布等罪という社会の健全な性的風俗を保護するための犯罪も含まれていますが、強制わいせつ罪は社会の風俗を保護するのではなく、個人の性的自由・感情を保護するためのものです。
ですから、「第二十二章 わいせつ、姦淫及び重婚の罪」に規定されている犯罪には、社会の健全な性的風俗を保護するためのものと、個人の性的自由・感情を保護するためのものの2種類が含まれています。

強制わいせつ罪は、被害者が13歳以上か、13歳未満かによって、その内容が異なります。

被害者が13歳以上の場合には、暴行または脅迫を用いたことが必要です。
したがって、詐欺的な行為でだましてわいせつな行為をした場合に、強制わいせつ罪にはなりません。ただし、準強制わいせつ罪に該当する可能性はあります。
暴行とは、人の身体に向けられた有形力の行使のことです。
脅迫とは、相手方を畏怖させるに足りる害悪の告知のことをいうものと解されます。
そして、通説的見解は、本罪の暴行・脅迫については、被害者の反抗を著しく困難にさせる程度の暴行・脅迫であることが必要と考えています。
例えば、被害者の手足を押さえつけて、わいせつな行為をする場合に、暴行を用いたといえます。
また、女性の隙をついて、その女性の胸を触るような行為について、暴行を用いたといえるかについて学説上の争いがあります。
この点について、学説の通説的見解は、このような場合も暴行を用いたに該当すると解釈します。判例も同様の見解です。
このような通説判例の見解によれば、暴行自体がわいせつ行為である場合も、本罪が成立すると考えていることになります。

被害者が13歳未満の場合には、暴行・脅迫を用いたことは必要ありません。
被害者がわいせつ行為を受けることに同意していても、強制わいせつ罪が成立します。
そのような被害者は、わいせつ行為の意味を正しく理解していない場合があると考えられているからです。

強制わいせつ罪のわいせつの意味については、わいせつ物頒布等罪のわいせつより広い概念と考えられています。
わいせつ物頒布等罪でのわいせつの意味は、徒(いたず)らに性欲を興奮または刺激せしめ、かつ普通人の正常な性的羞恥心を害し、善良な性的道義観念に反するものとするのが判例です。
そして、キスシーンがある映画の上映が、善良な性的同義観念に反することはなく、わいせつ物頒布等罪は成立しないと考えられます。
これに対し、無理矢理にキスする行為は、わいせつな行為に該当し、強制わいせつ罪が成立します。
そのようなことから、強制わいせつ罪におけるわいせつな行為とは、被害者の性的羞恥心の対象となるような行為をいうと考えられます。
被害者の身体に直接触れる必要はなく、例えば裸にさせて写真を撮影する行為も強制わいせつ罪が成立します。

なお、男性が女性に暴行・脅迫を用いて姦淫(性交)した場合には強姦罪が成立しますが、女性が男性に暴行・脅迫を用いて姦淫(性交)した場合には強姦罪には該当せず、強制わいせつ罪が成立します。

また、強制わいせつを犯す者に、自己の性欲を刺激・興奮させ、満足を得るという性的な意図が必要とするのが判例の見解でした。
最高裁判決昭和45年1月29日は、被告人が報復のため被害者の女性を裸にして写真を撮影した行為について、そのような性的な意図が認められないとして、無罪としました。
この事案では、別の女性がその場に同席しており、被告人は被害者の身体に一切触れていなかったことが認定されています。
これに対し、行為者に性的な意図はなくても、被害者の性的羞恥心が侵害されれば、強制わいせつ罪を認めるべきであるとする学説も有力です。
最高裁判決平成29年11月29日は、この昭和45年の最高裁判決の解釈を変更し、性的な意図を一律に強制わいせつ罪の成立要件とはしない旨を判示しました。
ただし、行為の性的性質が不明確な場合に、行為者の目的などの主観的事情を判断要素として考慮すべき場合があるとし、行為者の性的意図が強制わいせつ罪の成否に影響を及ばす余地が残されています。
この最高裁の事案では、被告人の男性が女子に対し、自己の陰茎を触らせ、口にくわえさせ、女子の陰部を触るなどしたものの、被告人はこのような状況を撮影して提供することが第三者からの借金の条件であり、性的意図はなかったと主張していたものです。
最高裁は、本件事案では行為の性的性質が明確なので、被告人の性的意図を考慮する必要はなく、強制わいせつ罪が成立するとしました。
なお、平成29年7月に刑法一部改正法が施行され、強姦罪が強制性交等罪に変わり、口腔性交も含むことになったことにより、最高裁の事案は、現在では、強制性交等罪が成立します。

強制わいせつ罪の実行に着手したものの、未遂に終わった場合も、未遂犯で処罰されます(刑法179条)。

それから、以前まで、強制わいせつ罪は、未遂犯も含め、親告罪とされ、被害者等の告訴がなければ検察官は起訴できない旨が規定されていました。
それは、被害者が、刑事裁判になることで、自らの性的な被害が公になることを望まないことがあるため、そのような被害者の意思を尊重するためと言われていました。
しかし、加害者が処罰されない余地が大きくなり、また被害者が処罰すべきか否かを明確に意思を示さなければならなくなることなどへの批判があったこと等から、平成29年の刑法一部改正により、親告罪ではなくなりました。
したがって、被害者が告訴しなくても、強制わいせつ罪で処罰され得ることになりました。
なお、この刑法一部改正が施行されたのは、平成29年7月13日のところ、施行前の行為についても、親告罪として扱われないことになっています。
ただ、施行前の行為で、施行時に法律上告訴されることがなくなっているものについては、起訴されず、処罰されません。
法律上告訴されることがなくなっているものとして、一度告訴がされた後に告訴が取り消されている(取り下げられている)場合が該当します(再告訴はできません)。

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