私印偽造罪とは、行使の目的で、他人の印章・署名を偽造する犯罪です。
私印偽造罪は、刑法167条1項に規定されています。
私印偽造罪の刑事罰は、3年以下の懲役に処せられます。
印章とは、人の同一性を表示するために使用される象形(文字・符号)です。
氏名の印章だけでなく、拇印や花押のようなものも含みます。
判例は、印鑑で押捺した印影だけでなく、印鑑それ自体(印形)も、印章にあたると判示しています。
学説上の多数説は、判例に反対しています。つまり、印章は印影だけで、印鑑自体は印章に該当しないと解しています。
それから、記号は、本罪の印章に含まれるかが問題とされています。
つまり、公印偽造罪の場合には別に公記号偽造罪の規定(刑法166条)があるため、公印偽造罪に規定されている印章に記号は含まれませんが、私記号偽造罪という規定がないため、私印偽造罪の印章には記号が含まれるとし、実質的に私記号の偽造を処罰すべきかどうかが問題と考えられています。
この点について、判例は、私印偽造罪の印章に記号も含まれると判示しています。
判例に反対する学説も有力です。
署名とは、人が自己のことを表す文字で氏名などを表記したものであり、一般的なサインのことです。
ただし、この点に関して、判例は、自署(サイン)だけでなく、印刷やゴム印などのいわゆる記名も、署名に該当すると判示しています。
学説は、判例に反対する説もありますが、多数説は判例と同じ見解を採っています。
本罪の対象物は、他人の印章・署名です。
ここでいうところの他人とは、公務所・公務員を除いた私人のことです。
なぜなら、公務所・公務員の印章・署名に関しては、公印偽造罪で処罰されるからです。
なお、公務所とは、官公庁その他公務員が職務を行う所のことです(刑法7条2項)。
公務員とは、国・地方公共団体の職員その他法令により公務に従事する議員、委員その他の職員のことです(刑法7条1項)。
実行行為に関して、印章の偽造とは、権限なしに、書類等の上に他人の印影を表示させることや、他人の印鑑を作製することです(判例の見解)。
その具体的方法としては、偽造の印鑑を押捺した場合、真正の印鑑を押捺した場合や、コピー機を使用した場合、筆記具で書く場合でも構いません。
つまり、その具体的方法については限定されていません。
署名の偽造とは、権限がないにもかかわらず、他人の署名を作り出すことです。
これについても具体的方法は問われませんので、コピー機を使用する場合でも、本罪が成立するものと思います。
ただ、要件として、印章の偽造も、署名の偽造も、一般人が真正なものと誤信するような外観があることが必要だと解されています。
架空人の印章や署名の偽造でも、本罪は成立すると思います。
それから、本罪の成立には、行為者に行使の目的があることが必要です。
行為者が自ら行使する目的でも、第三者に行使させる目的でも、行使の目的が認められます。