支払用カード電磁的記録不正作出罪とは、人の財産上の事務処理を誤らせる目的で、その事務処理の用に供する電磁的記録であって、クレジットカードその他の代金・料金の支払用のカードを構成するもの、または預貯金の引出用のカードを構成する電磁的記録を不正に作った場合に成立する犯罪です。
支払用カード電磁的記録不正作出罪は、刑法163条の2第1項に規定されています。
また、同罪の刑事罰は、10年以下の懲役または100万円以下の罰金とされています。
本罪は、平成13年に刑法が一部改正になった際、新たに追加された犯罪です。
この改正で、刑法163条の2~5までの規定が追加されましたが、それまでの刑法の規定だけでは、クレジットカードのスキミングなどでカード情報を盗んだだけの場合に不可罰になってしまったことや、電磁的記録不正作出罪の刑罰が有価証券偽造罪の刑罰より軽いこと等の問題を解決するためのものと言われています。
人の財産上の事務処理の用に供する電磁的記録であって、クレジットカードその他の代金・料金の支払用のカードを構成するものとは、例えば、クレジットカードやプリペイドカードの電磁的記録の部分のことです。
その他、スイカやワオン等の電子マネーのカード、ETCカード、デビットカード、図書カード、テレホンカード等の各種電磁的記録の付随するカードは、本罪の対象になるものと解されます。
財産上の事務処理の用に供するものであることから、印鑑登録証発行のためのカードや住民基本台帳カードは含まれません。
また、預貯金の引出用のカードを構成する電磁的記録とは、銀行、信用金庫等の金融機関が発行する預貯金のキャッシュカードのことです。
預貯金ではないローン用のカードや消費者金融のカードは、本罪の対象にならないものと思われます。
これらのカードを構成する電磁的記録を不正に作ることが実行行為です。
不正に作るとは、権限がないにもかかわらず支払用カードとして使用できる状態を作り出すことです。
例えば、不正に取得した他人の情報の入った電磁的記録をクレジットカードに印磁することが該当します。
外見上、ホワイトカードのように真正なカードの外見を有していなくても、電磁的記録がカードに印磁されれば、不正に作ったものと認められます。
本罪が既遂になるのは、電磁的記録がカードと一体化し、機械的な事務処理が可能になった時点です。
実際に支払用カードとして使用するためには、さらに機械的な処理が必要な状況の場合には、未遂であり、刑法163条の5により未遂犯も処罰対象となっています。
本罪は、人の事務処理を誤らせる目的があることが必要です。
したがって、支払用カードとして不正に利用する目的があることが必要であり、教材用として作成したに過ぎない場合には本罪は成立しません。
また、本罪が成立する場合には、電磁的記録不正作出罪は成立しません。
それから、最高裁平成3年4月5日は、不正テレフォンカードを偽造した場合に、有価証券偽造罪が成立すると判示しましたが、平成13年改正により創設された本罪が優先的に適用され、もはや有価証券偽造罪は成立しないとするのが有力な学説上の見解です。