偽造有価証券行使等罪とは、偽造・変造の有価証券または虚偽の記入がある有価証券を行使・行使の目的で人に交付・行使の目的で輸入する犯罪です。
偽造有価証券行使等罪は、刑法163条に規定されています。
偽造有価証券行使等罪の刑事罰は、3月以上10年以下の懲役です。
ですから、有価証券偽造罪、有価証券変造罪、有価証券虚偽記入罪と同じ法定刑ということです。
有価証券は、財産権を表示した証券であり、その権利の行使・処分のために証券の占有が必要なものです。判例も同様に解しています(最高裁決定昭和32年7月25日)。
例えば、切符(乗車券)、図書券、手形、小切手は、有価証券とされます。
本罪で問題となるのは、偽造・変造・虚偽記入の有価証券です。
偽造の有価証券は、作成権限がない者または作成権限があるがその権限を逸脱した者が、他人名義で作成した有価証券のことです。具体的には、作成権限がない者が精巧なカラーコピー機を使ってデパート商品券を作成することが偽造になります。
変造とは、権限のない者が、真正に成立した他人名義の有価証券に勝手に変更を加えることです。 他人が振り出した約束手形の受取日付を勝手に変更することは、変造です。
虚偽記入とは、手形の振出のような基本的証券行為を除いた付随的証券行為(裏書や引受など)について真実に反する記載をすることをいうと解するのが判例です。 例えば、他人の名前で勝手に裏書をしてしまうことです。
また、本罪を犯した者が自ら偽造等したことは不要です。つまり、第三者が偽造等した有価証券でも問題ありません。
有価証券偽造罪、有価証券変造罪、有価証券虚偽記入罪が成立するには、その者に行使の目的があることが必要ですが、本罪の偽造・変造・虚偽記入の有価証券は行使の目的がある者によって行われたことは必要ありません。
そして、偽造・変造・虚偽記入の有価証券を行使・行使の目的で交付・行使の目的で輸入するのが本罪の実行行為です。
行使とは、真正な有価証券として使用することです。流通に置く必要はなく、いわゆる「見せ手形」をすることも、行使に該当します。
それから、最高裁平成3年4月5日は、変造テレホンカードを公衆電話に挿入する行為も、行使に該当すると判断しました(ただし、現在は、刑法改正により、同様の行為は本罪ではなく、刑法163条の2第2項の不正電磁的記録カード供用罪で処罰されます)。
交付とは、他人に偽造等の有価証券であることを伝えて渡すこと、または偽造等であることを知っている他人に渡すことです。
行使の目的があることが必要ですので、交付を受けた者またはその他の者が偽造等の有価証券を真正な有価証券として使用する目的を有していることが必要です。
ですから、偽造の有価証券を偽物として教材で使用する場合には、本罪は成立しません。
輸入とは、国外から国内に搬入することであり、陸揚げが必要(領海に入っただけでは足らない)と解されています。
輸入についても行使の目的があることが必要です。
本罪は、未遂犯も処罰されます(刑法163条2項)。
同一人物が、有価証券を偽造した上、その偽造の有価証券を行使した場合、有価証券偽造罪と偽造有価証券行使罪が成立し、両罪は牽連犯(刑法54条1項後段)となります。