不退去罪とは、要求を受けたにもかかわらず、人の住居、人の看守する邸宅・建造物・艦船から退去しなかった場合に成立する犯罪です。
不退去罪は、刑法130条後段に規定があります。
不退去罪の刑罰は、住居侵入罪と同様で、3年以下の懲役または10万円以下の罰金です。
不退去罪の保護法益は、住居侵入罪と同様と考えられています。
つまり、不退去罪の規定上は、社会法益を保護法益とする体裁になっていますが、当該住居などについての個人法益が保護法益と解されています。
保護法益の具体的内容についても、住居侵入罪における平穏説と新住居権説の争いがそのまま妥当するものと思われます。
また、不退去罪の客体についても、住居侵入罪と同じであり、住居・人の看守する邸宅・建造物・艦船です。
住居は、人の起臥寝食に使用される場所のことです。
邸宅は、居住用の建造物で住居以外のことです。
建造物は、住居・邸宅以外の建物一般のことです。
艦船は、軍艦その他の船舶一般のことです。
邸宅、建造物、艦船は、人が看守していることが要件です。すなわち、人によって管理されていることが必要です。
不退去罪の実行行為である不退去とは、住居等に居住者の許諾を得る等して立ち入った者が退去しないことです。
退去しないという不作為が、実行行為となっていますので、真正不作為犯とされています。真正不作為犯とは、構成要件自体が不作為の形式で規定されている犯罪のことで、比較的珍しい犯罪類型です。
条文上、居住者等の要求を受けたにもかかわらず退去しなかったことが要件となっています。
したがって、居住者が立ち入った者の退去を内心は望んでいたとしても、退去の要求がなされないかぎり、不退去罪は成立しません。
退去の要求がなされた後、退去に必要な合理的時間が経過しても退去しなかった場合に、不退去罪が既遂となります。
退去を要求できる者は、居住者、建造物・邸宅・艦船の看守者、これらの者から権限を与えられた者と考えられています。
その後、退去しない限り、法益侵害が継続し、実行行為が継続して犯罪が終了しないことから、継続犯とされます。
最初から居住者の意思に反する侵入がなされて住居侵入罪が成立した上、居住者の退去要求がなされても退去しなかった場合、最初に成立した住居侵入罪しか成立せず、不退去罪は成立しないとするのが判例です。
刑法132条で、刑法130条の罪の未遂は罰すると規定されていることから、不退去罪についても未遂犯が形式的には考えられますが、不退去罪は退去要求がなされても退去しなかった時点で既遂となることから、未遂は考えられないとするのが有力な見解です。
これに対し、退去の要求を受けた者が、退去するのに必要な時間が経過する前に、居住者に屋外に突き出された場合に未遂犯の成立の余地があるとする見解もあります。