艦船転覆等罪とは、現に人がいる艦船を転覆・沈没・破壊した場合に認められる犯罪です。
艦船転覆等罪の規定は、刑法126条2項になります。
艦船転覆等罪の刑罰は、無期または3年以上の懲役です。
本罪の客体は、現に人がいる艦船です。
艦船とは、軍用船やその他の船舶一般のことで、特に限定されていないと思われます。
現に人がいるとは、汽車転覆等罪と同様、実行者以外の人間が船舶のなかに存在していることです。
実行行為は、艦船の転覆・沈没・破壊です。
転覆とは、艦船を横転させることです。著しく傾けたものの、横転するまでに至らなかった場合は、転覆とはいえないと解されています。
沈没とは、艦船の主要部分が水中に没した状態にさせることであり、完全に沈ませる必要はありません。
破壊とは、艦船の実質を害して、その航行機関たる機能の全部または一部を不能にする程度に損壊させることと解されています。
船を座礁させることは、転覆でも沈没でもないと解されています。
この点、最高裁決定昭和55年12月9日は、漁船をわざと座礁させて、船内に大量の海水を流入させるなどして、船舶の航行を不能にし、海難事故が発生したと装って、船舶と荷物に関する保険金を騙し取った事案について、船体に破損は生じていなくても、破壊に該当すると判示しました。
転覆・沈没・破壊については、その具体的手段については特に限定ありません。
現に人がいる艦船の転覆・沈没・破壊は、人命について非常に危険な行為ですので、重い刑罰が科されています。
人を殺すことの認識をしながら、艦船転覆等を行い、現に人が死亡してしまった場合は、殺人罪と艦船転覆等罪が両方成立すると思います。
そして、殺人罪と艦船転覆等罪は、観念的競合(刑法54条1項前段)に該当し、重い殺人罪の刑罰によって処断されることになると思われます。