汽車転覆等罪とは、現に人がいる汽車・電車を転覆・破壊した場合に成立する犯罪です。
汽車転覆等罪は、刑法126条1項に規定があります。
汽車転覆等罪の刑罰は、無期または3年以上の懲役です。
この犯罪の客体は、現に人がいる汽車・電車です。
現に人がいるとは、車中に犯人以外の人がいることです。
どの時点で、車中に人がいることが要件として必要であるかについては、学説上の争いがあります。
①転覆等をさせる実行行為の開始時点とする説。
②転覆等の結果発生した時点とする説。
③実行行為の開始時点から結果発生時点までのどこかの時点で構わないとする説。
④実行行為の開始時点と結果発生時点の双方とする説。
このうち、判例は、古い判例ですが(大審院対象12年3月15日)、①説の転覆等をさせる実行行為の開始時と判示しています。
汽車とは、蒸気機関で軌道上を走行する交通機関のことです。汽車にガソリンカーも含むとした古い裁判例があります。
電車とは、電力で軌道上を走行する交通機関のことです。
汽車・電車については、走行中か停止中かは問わないと考えられています。
ただし、停止中でも、修理のために車庫にあるなどのように、およそ交通機関としての用に供されていない場合には、本罪は成立しないとする学説が有力です。
本罪の実行行為は、汽車・電車を転覆・破壊することです。
転覆とは、汽車・電車を横転、転落させることです。
脱線させただけでは、転覆には該当しないと考えられています。
破壊とは、汽車・電車の実質を害して、その交通機関としての用法の全部または一部を失わせる程度の損壊とするのが判例(最高裁判決昭和46年4月22日)です。
これに対して、破壊の程度の大小を問わないとする学説も存在しますが、通説は判例と同じ見解です。
通説判例の見解によれば、投石で電車の窓ガラスを割る程度では、本罪は成立しないものと思われます。器物損壊罪が成立する程度です。