往来妨害致死傷罪とは
往来妨害致死傷罪とは、往来妨害罪を犯し、よって人を死傷させた場合に成立する犯罪です。
往来妨害致死傷罪は、刑法124条2項に規定されています。
往来妨害罪の結果的加重犯です。
刑罰について
本罪の刑罰は、複雑なところがあります。
本罪の刑罰は、「傷害の罪と比較して、重い刑により処断する。」と規定されています。
この規定の意味は、傷害の結果が生じた場合には、往来妨害罪の刑罰と傷害罪の刑罰を比較し、刑罰の上限と下限の双方について重い方を刑罰とするということです。
死亡の結果が生じた場合には、往来妨害罪の刑罰と傷害致死罪の刑罰を比較し、刑罰の上限と下限の双方について重い方を刑罰とするということです。
したがって、傷害の結果が生じた場合については、往来妨害罪の刑罰である2年以下の懲役または20万円以下の罰金と傷害罪の刑罰である15年以下の懲役または50万円以下の罰金を比較し、重い傷害罪の刑罰になります。
よって、傷害の結果が生じた場合の刑罰は、15年以下の懲役または50万円以下の罰金です。
死亡の結果が生じた場合については、往来妨害罪の刑罰である2年以下の懲役または20万円以下の罰金と傷害致死罪の刑罰である3年以上の有期懲役(20年以下)を比較し、重い傷害致死罪の刑罰になります。
よって、死亡の結果が生じた場合には、3年以上の有期懲役(20年以下)となります。
犯罪の要件について
本罪は、往来妨害罪の実行行為である陸路等の損壊・閉塞によって往来の妨害の結果が発生したことで人が死傷したことが必要とするのが通説的見解です。
この見解によれば、損壊・閉塞行為そのものから、人が死傷する結果が発した場合(往来の妨害とは関係しない場合)には、往来妨害致死傷罪には該当しないと解されています。
これに対し、損壊・閉塞行為そのものから人の死傷する結果が発生した場合でも、往来妨害致死傷罪が成立するとの見解もあります。
関連の判例
これに関連した判例として、最高裁判決昭和36年1月10日があります。
この事案は、石川県土木部道路課長であった被告人が、強度の十分でない木造補剛構つき吊り橋「天狗橋」の改築に要する国庫補助金を獲得するため、天狗橋があたかも台風によって全長の4分の3以上について風害を受けたような状況を作出しようと企て、天狗橋を損壊すべき旨を他の共犯者に指示し、共犯者の実行により橋粱損壊を遂げ、損壊行為実行中、予想外なことに橋粱が墜落するに至り、これによって通行人や作業人に死亡者・負傷者が生じたものです。
最高裁は、この事案で、往来妨害致死傷罪の成立を認めました。
この最高裁判決に対する学説上の評価として、同判決は、 損壊行為そのものから人の死傷する結果が発生した場合でも、往来妨害致死傷罪の成立を認めたとするものがあります。
ただし、この最高裁判決の事案では、橋の損壊行為により往来の妨害の結果が生じていたもので、損壊行為そのものから人の死傷する結果が発生したものではないと考える見解もあります。
死傷の結果の認識がある場合は別の犯罪になること
また、往来妨害致死傷罪は、死傷の結果について、行為者が認識・認容していた場合には成立しません。
傷害の結果を認識・認容していた場合には、傷害罪が往来妨害罪とは別に成立します。
死亡の結果を 認識・認容していた場合には、殺人罪が往来妨害罪と別に成立します。