逃走罪とは、裁判の執行により拘禁された既決・未決の者が逃走する犯罪です。
刑法97条に規定されています。
逃走罪の刑罰は、1年以下の懲役になります。
逃走罪は、刑事手続において身柄が拘束された者が逃走するものですが、刑事手続で身柄が拘束されている者でも、逃走罪にならない場合があります。
逃走罪が成立することになる、裁判の執行により拘禁された既決・未決の者が具体的にどのような場合を指すかが問題となります。
「裁判の執行により拘禁された」に該当しない典型的な例として、逮捕された者があります。
逮捕には、現行犯逮捕、通常逮捕、緊急逮捕という種類がありますが、いずれの逮捕であっても、逮捕段階で逃走したこと自体は逃走罪に該当しません。
逮捕段階の者を含めないための表現が、「裁判の執行により拘禁された」であると解されています。
ただし、逮捕者については、逃走罪にはなりませんが、加重逃走罪(刑法98条)、被拘禁者奪取罪(刑法99条)、逃走援助罪(刑法100条1項、2項)、看守者逃走援助罪(刑法101条)の対象になる場合があります。
なお、「裁判の執行により拘禁された」という表現は、平成7年の刑法改正によるものであり、それ以前は「既決、未決ノ囚人」と規定されていました。
既決とは、有罪の確定判決によって監獄に拘禁されている者のことです。
具体的には、懲役、禁錮、拘留の刑罰に処せられている者、死刑の言い渡しを受けて死刑執行までの間拘置されている者、労役場留置の処分を受けている者のことです。
少年院に収容されている者は、含まれないとされています。
未決とは、刑事事件で捜査中もしくは裁判中の者、つまり被疑者・被告人で、身柄が拘束されている者のことで、逮捕中の者は含みません。
未決の者は、いわゆる勾留により身柄が拘束されている者です。
被疑者・被告人が精神障害などにより刑事責任能力を問えない可能性がある場合に、心身・身体を調べるために、期間を定めて病院などの施設で身柄を拘束する鑑定留置中の場合も、未決の者に含むと考えられています。
逃走とは、逃げることですが、法的に言えば、拘禁状態から離脱すること、または看守者の実力的支配を脱することと表現されます。
監獄の塀を乗り越えれば、通常は逃走したと解されます。これにより逃走罪が既遂となります。
ですが、看守者による追跡が継続している場合には、まだ看守者の実力的支配から脱したとは言えず、追跡により逮捕されてしまえば、逃走罪の未遂(刑法102条により未遂罪も罰せられます)が成立するだけです。
一旦は街頭で姿をくらましたところ、30分後に緊急手配で逮捕された事例で、逃走罪の既遂が認められた裁判例があります。