横領罪

横領罪とは

横領罪とは、他人から委託を受けて占有している物を自己の物として処分する犯罪です。

横領罪は、刑法252条に規定されています。

刑罰は、5年以下の懲役とされています。
窃盗罪や、詐欺罪恐喝罪などの多くの財産に対する罪が、10年以下の懲役などの刑罰とされていることに比較して、軽い刑罰となっています。
その理由については、横領罪は、基本的に被害者が犯人を信頼して財物の占有をさせていることから被害者にも帰責される点があることや、自分の手元に財物があるという誘惑的な状態があることなどが挙げられています。

委託信任関係による占有

横領罪の要件として、重要なのは、犯人が委託信任関係により他人の物を占有している状態にあることです。横領

ここでいうところの「占有」とは、事実上の支配と法律上の支配を含みます。
事実上の支配というのは、物を所持している状態や、物を自宅で預かっている状態などです。
法律上の支配とは、例えば、不動産の登記簿上の所有者になっている状態です。

また、その占有が委託信任関係に基づくことが必要です。つまり、目的物の所有者などから依頼を受けて占有していることが必要なのです。
横領罪が占有離脱物横領罪より重く処罰されるのは、この委託信任関係を破ったことにあり、それが横領罪の本質とされるのです。

したがって、委託信任関係なく自己の占有に至った物を自己のものにした場合には占有離脱物横領罪(遺失物等横領罪)が成立するだけとされます。
例えば、コンビニエンスストアで、釣り銭を余分にもらったことを自宅に帰ってから気づいた場合、余分な釣り銭については、自己が占有している他人の物ですが、委託信任関係に基づく占有ではありませんので、この余分な釣り銭を自分のものにしたとしても、横領罪は成立せず、占有離脱物横領罪が成立するだけです。

金銭について

それから、金銭については、そもそも横領罪の対象になるかどうかが学説上問題とされています。
つまり、金銭は、民法上、占有と所有が一致すると言われていることから、金銭を預託した場合、横領罪成立の余地がなくなり、背任罪の成否のみ問題となることになるのではないかと言われています。

刑法の通説的見解は、金銭の預託の状態に応じて横領罪が成立する場合と成立しない場合を分けています。
ⅰ預けた金銭を受託者が消費することが前提とされる消費寄託(民法666条)の場合、所有権は受託者に移転するので、横領罪は成立しません。
ⅱ封金の場合、特定物として寄託されたものであり、寄託者の所有に属することから、受託者がそれを自分で使ってしまえば、横領罪が成立します。
ⅲ使途が定められた金銭の場合、寄託者の意思を尊重し、受託者が予定された使途に用いることを法的に保障することが必要であるから、寄託された金銭の所有権は寄託者にあり、横領罪の成立を認めるのが有力説です。背任罪が成立するとする説もある。

不法原因給付との関係

さらに、不法原因給付という問題があります。

民法708条は、「不法な原因のために給付をした者は、その給付したものの返還を請求することができない。ただし、不法な原因が受益者についてのみ存したときは、この限りでない。」と規定しています。これを不法原因給付といいます。
例えば、妻子ある男性が不倫相手の愛人に対してマンションを贈与した場合に、愛人と別れた後で、贈与の原因となる不倫関係が公序良俗違反だと主張して、贈与契約の無効を主張してマンションの返還を請求することは認めないというのが民法708条です。
似たような事例で、覚せい剤の購入を依頼して100万円を預けた場合に、委託を受けた者が覚せい剤を購入するのをやめて、100万円を自分のものにしてしまった場合、横領罪が成立するかどうかが刑法上問題とされます。

刑法上の多数説的見解は、この覚せい剤の事例について、不法原因給付とは異なり、不法原因寄託だとし、このような場合には横領罪の成立を認めます。なお、不法原因寄託も民法708条の適用を受け返還請求が認められないとし、横領罪の成立を否定する説もあります。

越権行為説と領得行為説

横領罪の実行行為について、ⅰ越権行為説とⅱ領得行為説の争いがあります。
ⅰ越権行為説は、委託の趣旨に反し、占有物に対して権限を超えた行為すなわち権限逸脱行為が横領だと主張します。占有物の毀棄・隠匿も横領とします。
ⅱ領得行為説(通説判例)は、占有物を不法に領得することが横領であり、いわゆる不法領得の意思を実現する全ての行為が横領罪の実行行為とします。

すぐに既遂となり、未遂罪がないこと

また、横領行為に着手すれば、直ちに横領罪の既遂罪となります。横領罪に未遂罪がないのは、すぐに既遂罪が成立市、未遂の状態が観念されないからとされます。

横領後の詐欺行為

なお、横領行為がなされた後、所有者から預かった物の返還を求められた際に、「預かった覚えはない」とだました場合、詐欺行為は、不可罰的事後行為として処罰されません。
つまり、横領物を確保するために詐欺的手段をとることも横領罪に含まれて評価済みとされています。

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