詐欺利得罪とは、人を欺いて財産上の利益を得る犯罪です。 詐欺利得罪は、刑法246条2項に規定されています。
詐欺利得罪は、詐欺罪とほぼ同じですが、詐欺罪が財物(不動産と動産)を得るのに対し、詐欺利得罪は財物以外の財産上の利益を得る場合を対象としています。
財産上の利益とは、例えば、借金の返済を免除してもらうことや、タクシーで目的地まで運んでもらうことが該当します。
財産上の利益については、一時的な利益や、民法上無効な利益も含むものと考えられており、広く認められています。
これらの利益をだまし取った場合に該当するのが詐欺利得罪です。
刑法246条2項には、「財産上不法の利益」を得ることが詐欺利得罪であることが規定されていますが、不法の利益とは違法な利益を得るという意味ではなく、人を欺くという不法な手段で財産上の利益を得ることが詐欺利得罪であるという意味の規定です。
詐欺利得罪に該当する行為は、ほぼ詐欺罪と同様で、以下のとおりとされています。
つまり、①詐欺行為 によって、②相手方が錯誤(だまされた状態)に陥り、それにより③相手方が犯人に対し財産上の利益を移転させる処分行為をし、④財産上の利益が犯人に移転されることが必要とされています。
例えば、①タクシー代を支払う意思もお金もないのにタクシー代を支払うかのように装ってタクシーに乗り込んで目的地まで行くよう伝え、②タクシー運転手がタクシー代が支払われると錯誤に陥って、③タクシー運転手が運送するという行為をし、④犯人が運送されるという利益を得ることで、詐欺罪が成立します。
詐欺罪の成立には、目的地に到着する必要はなく、タクシーが走り始めた段階で、既に利益を得ているため、詐欺罪(既遂)が成立します。
以上の行為において、詐欺罪と異なる点として、③の処分行為があります。
詐欺罪の場合は、同じ場面で財物の交付行為が問題になります。
詐欺利得罪の対象は、詐欺罪床と異なり、物ではないので、物の交付ではなく、利益を移転させる行為が問題になり、これを処分行為と呼ぶのです。
例えば、借金の支払を免除する行為やタクシーで運送する行為が、処分行為に該当します。
この処分行為について、無意識的処分行為であっても良いかということが論争になっています。
例えば、宿泊代金の支払を免れるために「散歩に行ってくる」と言って外出するのを旅館が認めた場合、認めたのは外出であって代金支払を免除したわけではありませんが、このような無意識的処分行為でも詐欺利得罪の処分行為と認めるかどうかが問題となります。
無意識的処分行為でも詐欺利得罪の処分行為と認める見解では、この例で詐欺利得罪が成立することになりますが、処分行為と認めない見解では詐欺利得罪の成立が否定されます。
判例上、見解は明確ではありませんが、無銭飲食・宿泊の事例で、自動車で帰宅する知人を見送ると偽って店先に出て逃走した事案について、処分意思がないから詐欺にあたらないとしたものがあります(最高裁決定昭和30年7月7日)。