強盗致傷罪とは、強盗の機会に被害者などが負傷してしまった場合に成立する犯罪です。
刑法240条前段に規定があります。
強盗致傷罪の刑罰は、無期懲役または6年以上20年以下の懲役です。
強盗致傷罪は、強盗罪の加重類型です。
以前の強盗致傷罪の刑罰は、7年以上の懲役でしたが、平成16年の改正により、6年以上の懲役と軽くなりました。
最近の風潮は厳罰化ばかりですが、6年以上の懲役にすることで情状酌量の減軽により執行猶予の可能性を認めるべきとの判断がなされたものです。
強盗致傷罪は、強盗の実行に着手した強盗犯人が行った行為により人が負傷することが必要です。
そのようなことから、強盗致傷罪は強盗犯人という身分がある者の犯罪として身分犯とされています。
また、強盗致傷罪は、強盗犯人が人を負傷させる認識(傷害の故意)がないが、結果的に人が負傷してしまった場合に成立する犯罪です。
つまり、強盗致傷罪になる具体例としては、強盗犯人が包丁を突きつけて金品を要求したところ、被害者の方が抵抗してもみ合いになり、強盗犯人は傷付ける意思が全く無かったが、結果的に被害者の腕に包丁の刃があたり、被害者が負傷した場合です。
人を負傷させる認識(傷害の故意)がある場合には、強盗傷人罪という別の犯罪になります。
ただし、強盗傷人罪について、強盗致傷罪の刑法240条前段以外に規定があるわけではないことから、刑法240条前段が強盗傷人罪の根拠規定とされています。
したがって、刑法240条前段は、傷害の故意がある場合もない場合も含めて規定していると考えられています。
この強盗致傷罪、強盗傷人罪については、強盗の手段としての暴行・脅迫によって傷害の結果が発生することは必要ではありません。
そして、傷害の結果は強盗の機会に行われた行為によって生じたことが必要と解釈されています。
強盗の機会というのが、どのような場面まで含むのかについては微妙な判断になる場合があります。
まさに強盗現場で行われた行為で傷害の結果が発生すれば、強盗の機会に該当することは間違いないと思います。
距離的・時間的に離れた場合に、どこまで強盗の機会と言えるかは、明確な基準があるわけではありません。
実際の裁判例では、タクシー強盗が拳銃を突きつけて金銭を要求したところ運転手が金銭を渡さなかったところ、運転手がその地点から5、6分運転して交番前まで来たところで、強盗犯人が逃走しようとして運転手ともみ合いになり、拳銃で運転手を殴って怪我をさせた事案で、強盗の機会であると判示されたものがあります(最高裁判決昭和34年5月22日)。
また、刑法240条の罪の未遂は罰するという刑法243条の規定がありますが、強盗致傷罪、強盗傷人罪の未遂罪はないと考えられています。
理論的にあり得るのは、財物を奪うことが未遂である場合、負傷させることが未遂である場合です。
ただし、財物の点と人の身体の点で重要なのは、人の身体と考え、財物を奪う点が未遂かどうかは犯罪の成否と無関係と考えるのが通説です。
つまり、財物を奪うことが未遂でも人に怪我をさせれば強盗致傷罪、強盗傷人罪は既遂罪ということです。
そして、怪我をさせる認識(傷害の故意)がありながら怪我をさせるに至らなかったという負傷させることが未遂の場合については、ただの強盗の暴行に過ぎないとされ、強盗罪が成立するだけで強盗傷人罪の未遂罪にはならないと考えられています。
なお、刑法243条、240条の未遂については、強盗殺人罪の殺人が未遂の場合を規定していると考えるのが通説的見解です。