事後強盗罪とは、窃盗犯が盗んだ財物を取り返すことを防ぐため、または逮捕を免れるためなどの目的で暴行脅迫を行った場合に成立する犯罪です。
刑法238条に規定されています。
事後強盗罪の刑罰は、強盗罪と同じで、5年以上の有期懲役です。
事後強盗罪の具体例としては、スーパーマーケットで万引き(窃盗罪)して店を出たところで、店員に「万引きしただろう」と呼び止められたのに対し、逃げるためにその店員に対して金属バットで殴るという暴行を加えた上で逃走した場合に事後強盗罪に該当します。
強盗罪は、最初から暴行・脅迫をした上で財物を奪取する犯罪であるのに対し、事後強盗罪は、最初はただの窃盗罪であったところ、反抗や逃走を邪魔する者に対して暴行脅迫を加える犯罪です。
このように、強盗罪とは、暴行・脅迫が先か後かの違いはあるものの、結果的に暴行・脅迫と財物奪取が行われているという意味では同じであることから、 事後強盗罪についての刑法238条が「強盗として論ずる。」と規定し、強盗罪と同じ刑罰が科されることになっているのです。
事後強盗罪の法律構成について学説上の争いがあり、最高裁判決も出ていません。
一つは、窃盗犯という身分を持つ者が暴行・脅迫をした場合に事後強盗罪が成立するとする身分犯説と言われる考え方です。
もう一つは、窃盗罪を犯した者がその後に暴行罪・脅迫罪に該当する行為をしたと考え、窃盗罪と暴行罪・脅迫罪の複数の犯罪が結合したものとする結合犯説という考え方です。
基本的にはいずれの説を採用しても結論に影響はないですが、窃盗に関与していない共犯者が暴行・脅迫だけ加わったときに、この共犯者が何罪に該当するかなどの問題で結論が変わってきます。
複雑な話になりますので、詳しい説明は省略させていただきます。
それから、事後強盗罪の前提の窃盗については、窃盗未遂(実行の着手)でも構わないと考えられています。
そして、窃盗未遂の後、暴行・脅迫が①財物を取り返すことを防ぐ目的、②逮捕を免れる目的、③罪跡(犯罪の証拠)を隠滅する目的といういずれかの目的のもとに行われる必要があります。
このようなことから、事後強盗罪は、目的犯と言われます。
事後強盗罪が成立するには、ただ暴行罪・脅迫罪に該当する行為がなされるだけでなく、暴行・脅迫の程度として、 強盗罪と同様、反抗を抑圧するに足りる程度のものが必要と思われます。
暴行・脅迫の相手は、窃盗の被害者だけでなく、警備員や警察官、通りすがりの人であっても、上記目的が認められれば足ります。
ただし、窃盗の機会に暴行・脅迫が行われたことが必要とされています。窃盗の機会とは、窃盗の継続的延長と見られる時期・場所ということです。
したがって、窃盗をした3日後に警察が捕まえに来たのに反撃したのでは、事後強盗罪は成立しません。
そして、暴行・脅迫は行われたが、結局盗んだ物が取り返されたり、逃走できずに逮捕されたりしても、事後強盗罪は成立します。
事後強盗罪については、刑法243条で未遂犯を罰すると規定されているところ、事後強盗罪の未遂犯は窃盗が未遂の場合とするのが判例(最高裁判決昭和24年7月9日)・通説です。
ですから、窃盗既遂犯が警備員に暴行・脅迫をしたが、結局警備員に取り押さえられたとしても、事後強盗罪の未遂ではなく既遂ということになります。