民法(債権法)改正の解説75 [民法423条の2] 代位権行使の範囲

代位権行使の範囲を規定している民法423条の2が、今回の改正で新設されています。

民法423条の2の条文

民法423条の2の条文は、以下のとおりです。

債権者は、被代位権利を行使する場合において、被代位権利の目的が可分であるときは、自己の債権の額の限度においてのみ、被代位権利を行使することができる。


この新しい条文の規定している内容を解説していきます。

代位権行使の範囲について

民法423条の2は、代位権行使の範囲について、上記のように規定しています。100万円.jpg

ここで規定しているのは、以下のような問題です。
例えば、債権者Mが債務者Nに対して100万円の貸金返還請求権を有していたところ、Nが第三債務者Oに対して200万円の貸金返還請求権を有しています。
Mは、Nがお金が無いとして100万円を返済せず、Oから回収することも怠っていたとします。
Mが、NのOに対する200万円の貸金返還請求権を債権者代位権として行使しようとした場合、Oに対して、200万円全額を請求できるか、自己の権利の範囲の100万円までしか請求できないかというのが問題となります。

そして、民法423条の2は、「自己の債権の額の限度においてのみ、被代位権利を行使することができる。」と規定しています。
つまり、Mは、自己の債権の額100万円の限度においてのみ代位行使することができるのです。

この帰結については、最高裁判例を条文として明文化したものと解されています。

最高裁判決昭和44年6月24日について

最高裁判決昭和44年6月24日は、上記例のように、債権者が債務者に対して有する債権額より債務者が第三債務者に対して有する債権額を超えている事例において、以下のように判示しました。

「債権者代位権は、債権者の債権を保全するために認められた制度であるから、これを行使しうる範囲は、右債権の保全に必要な限度に限られるべきものであつて、債権者が債務者に対する金銭債権に基づいて債務者の第三債務者に対する金銭債権を代位行使する場合においては、債権者は自己の債権額の範囲においてのみ債務者の債権を行使しうるものと解すべきである。」

この判例については、債権者代位権を行使した債権者が第三債務者に対して直接自らに支払うように請求できること、直接支払を受けた債権者は、債務者に支払を受けた金銭を返還する義務を負うものの、債務者に対する債権と相殺することが認められていることによるものと解説されています。
すなわち、このような事実上の優先弁済権があることから、債権者は自己の債権額の範囲でしか代位権を行使できないことになったものと解されています。

改正での議論

今回の債権法改正の議論のなかで、中間試案では、異なる内容が提案されていました。

それは、債権者は、代位行使をする場合において、その代位行使にかかる権利の全部を行使できる、という内容でした。

上記423条の2の条文とは異なり、債権者は、自己の債権額にかかわらず、債務者の第三債務者に対する権利の全額を代位行使できるというものだったのです。
これは、上記最高裁判例とも異なる結論です。

中間試案では、それと共に、民法423条の3について、債権者が第三債務者から直接支払いを受けることは可能であるが、受け取った金銭を債務者に返還しなければならず、相殺することもできないという条文も提案されていました。

つまり、中間試案では、債権者代位権における事実上の優先弁済権を否定し、それと共に債権者の債権額の範囲でしか代位行使できないという制限もなくなったのです。
それまでの債権者代位権の運用を抜本的に変更するものでした。

ですが、債権者代位権により事実上の優先弁済権を行使できるという便利な制度がなくなってしまうことに反対意見があり、そのような制度変更は見送られました。

そして、上記のように改正前の制度、判例を維持する内容で、明文化されることになったものです。

したがって、改正前と改正後で実務の運用に変更がないといえます。

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