民法(債権法)改正の解説54 [民法370条] 抵当権の効力の範囲

抵当権の効力の範囲を規定している民法370条が改正されています。

改正後の370条

改正後の370条は、以下の規定になっています。

抵当権は、抵当地の上に存する建物を除き、その目的である不動産(以下「抵当不動産」という。)に付加して一体となっている物に及ぶ。ただし、設定行為に別段の定めがある場合及び債務者の行為について第424条第3項に規定する詐害行為取り消し請求をすることができる場合は、この限りでない。

この370条は、抵当権の効力の及ぶ範囲を原則として抵当権が設定された不動産とこれに付加して一体となっている物としたものです。

付加して一体となっている物のことを付加一体物といいます。

付加一体物と付合物

この付加一体物が具体的にどこまでの範囲を含むかについて、問題があります。

建物の壁紙や土地に植えられた庭木のように、不動産に付着して取り外し困難な付合物(民法242条)については、付加一体物に含まれ、抵当権の効力が及ぶことに争いがありません。

付加一体物と従物

次に、従物(民法87条)という概念が問題になります。ガソリンスタンド.jpg

建物内の畳や照明器具、取り外すことができる庭石は、その物の常用に供するため附属させた従物に該当しますが、付加一体物に該当するかについて争いがあります。

この点について、大正時代の古い判例が、民法87条2項で従物は主物の処分に従うと規定されていることから、抵当権設定前から存在する従物について、抵当権の効力が及ぶとしたものがあります(付加一体物に該当するとは言っていません。)。
最近の最高裁も、理由付けは必ずしも明らかではありませんが、抵当権設定時から存在する従物(ガソリンスタンドの地下タンク・洗車機等の設備や石灯籠)について抵当権の効力が及ぶことを認めています。

これに対し、抵当権設定後に附属された従物については、抵当権の効力について、裁判例の判断が明確ではありません。
従物は主物の処分に従うことを理由とした古い判例の論理からすると、抵当権設定という処分後に附属された従物については、抵当権の効力は及ばないことになります。

多くの学説は、抵当権設定の前後を問わず、単に従物も付加一体物に含まれると解釈すれば良いと主張しています。

これらの点については、今回の改正でも明確化しておらず、裁判所の解釈に委ねられています。

従たる権利

それから、借地権上の建物だけに抵当権が設定されていた場合に、借地権についても抵当権の効力が及ぶか、という問題があります。

これについて、最高裁は、借地権は従たる権利であるとして、抵当権の効力が及ぶことを認めています。
借地権について抵当権の効力を及ぶことを認めないと、土地利用権のない建物を競売で購入する者はまずいないため、借地権付き建物の担保化が困難になってしまいますので、これを認めた最高裁は妥当だといえます。

土地と建物は別物であること

さらに、370条では、土地だけに抵当権が設定されている場合、土地上の建物には抵当権の効力は及ばないことを規定しています。

これは、民法が、土地と建物を別の不動産として取り扱っている根拠規定だと言われています。

諸外国では、土地と建物が一つの不動産ではなく、別の不動産として取り扱われているのは少ないと言われています。

債権者からすれば、土地と建物の両方に抵当権を設定すれば済むので、多くの住宅ローンでは、土地と建物の両方に抵当権が設定されています。

370条ただし書き

370条ただし書きは、抵当権の効力が付加一体物に及ぶという原則の例外を定めています。

一つは、設定行為に別段の定めがある場合です。
抵当権設定者と抵当権者との合意で、付加一体物に該当する物であっても抵当権の効力の範囲外とする合意を締結することができるのです。

もう一つは、第424条第3項に規定する詐害行為取消請求をすることができる場合です。
これについては、抵当権設定者が、一般財産である金貨を建物の壁に埋め込んで建物と一体化させた場合に、一般債権者が害されるため、第424条第3項の詐害行為としての要件を満たす場合には、金貨が抵当権の効力の範囲外になることを認めたものと思われます。

改正の箇所

今回改正されているのは、370条ただし書きの形式的な箇所です。

詐害行為取消権の民法424条が改正されたことに伴うものです。

改正前は「第424条の規定により債権者が債務者の行為を取り消すことができる場合」となっていましたが、改正後は「債務者の行為について第424条第3項に規定する詐害行為取消請求をすることができる場合」という規定に改正されています。

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