預貯金の仮払い制度の新設
預貯金の仮払い制度が、今回の相続法改正で、新設されました。
これは、最高裁大法廷決定平成28年12月17日が、従来の判例と異なる判断をしたことによって生じた問題を解決するためのものと思われます。
従来の判例は、遺産の預貯金債権については、各相続人の相続分に応じて当然に分割されるとし、各相続人が個別に金融機関へ支払を求めることができるものとされていました。
ところが、上記最高裁決定は、預貯金債権について、遺産分割の対象となり、各相続人の相続分に応じて当然に分割されないと判示しました。
最高裁判決による不都合
この最高裁判決により、各相続人は、相続財産の預貯金を取得するためには、遺産分割について全相続人の合意がまとまるか、遺産分割前に預貯金の払戻しを受けることについて全相続人の合意がまとまることが必要になりました。
そうすると、被相続人に扶養されていた者の生活費や葬式代、被相続人の負債、相続税の支払などの早急に預貯金を払い戻す必要がある場合に、相続人が困る事態が生じるおそれがあります。
そこで、預貯金の仮払い制度を規定した改正後の民法909条の2が新設されました。
預貯金の仮払い制度の内容
各相続人は、相続開始時の預貯金のうち自己の相続分の3分の1について払戻しを受けることができるというものです。
ただし、金融機関ごとの上限が150万円になることが法務省令で決まっています。
例えば、死亡した被相続人の男性について、妻と子1人が相続人となる場合に、遺産としてX銀行に1500万円の預金があり、Y銀行に300万円の預金があったとします。
その場合、妻は、X銀行に対しては、1500万円の2分の1のさらに3分の1である250万円が150万円を超えますので、上限である150万円の払戻しを請求できます。
Y銀行に対しては、300万円の2分の1のさらに3分の1は50万円となり、50万円の払戻しを請求できます。
一つの銀行に定期預金と普通預金が両方あった場合や普通預金で二つの口座があった場合でも、一つの銀行から払戻を受けられる上限は150万円で変わりません。
この例では、子も妻と相続分が同じ2分の1ですので、妻と同じ額を各銀行に請求できます。
そして、残りの分配を妻と子の遺産分割協議で決めることになります。
仮払いした分の取扱い
仮払い制度で支払を受けた分は、その相続人が遺産の一部の分割によって取得したものとみなされます(改正後の民法909条の2後段)。
預貯金仮払制度の規定の施行は、令和元年7月1日です。
ただ、施行日以前に発生した相続であっても、令和元年7月1日以降、預貯金の仮払いを行うことが認められています。
出典:法務省ホームページhttp://www.moj.go.jp/content/001285654.pdf