無銭飲食、またの名を食い逃げといいますが、当然に犯罪だと思いますよね。
ところが、犯罪にならない場合があるんです。
それは…注文して食べ始めた時点では、お金を払うつもりだったけど、途中でお金を払うのをやめようと思って隙を見て逃げた場合です。
犯罪にならない理由
解説しますと、まず通常の無銭飲食、つまり始めからお金を払う意思がない場合は、詐欺罪です。何が詐欺かというと、お金を払う意思がないのに、お金を払う意思があるかのように見せかけて注文したことが詐欺であり、店員に食事を出させた時点で詐欺罪(既遂。途中で失敗したら未遂です。)が成立します。そうすると、注文して食べ始めた時点でお金を払う意思があったのであれば、このような詐欺は成立しないわけです。
問題は、お金を払わないで逃げたことですが、ただ隙をついて逃げることは、詐欺ではありません。このようなケースを「利益窃盗」といい、窃盗罪にもあたらず、犯罪にならないとされています。しかし、言うまでもなく、食べたら代金を払わなければならないのですから、絶対にやってはいけないことですので、気をつけてください。
言い逃れはむずかしいです
また、食い逃げした人が、始めはお金を払うつもりだったと言えばいいかというと、そうではありません。なぜなら、お金の持ち合わせがない人が食事後に逃げたら、本人がいくら言い逃れをしようと、始めからお金を払うつもりがなかったとみられてしまうのです。だいたい食い逃げするような人は、持ち合わせもなければ、家にお金があるわけでもない人がほとんどです(住む家もないような人も多いです)から、状況的に始めからお金を払う意思がなかったと認定され、詐欺罪になってしまいます。
それから、隙を見て逃げるのではなく、店員に「ちょっと電話がかかってきたので、外で電話して戻ってくるから」と言って、店員をだまし、そのまま逃げてしまった場合は、詐欺にあたりそうですよね。このようなケースが詐欺かどうかは、刑法学者がいまだに議論しているところでして、判例実務も定まっていません。実際に、自動車で帰宅する知人を見送ると言って店先に出て逃げた事案について、最高裁は詐欺罪の成立を否定しています。ただし、似たような別の事案で、詐欺罪を認めているものもあるのです。興味を持たれた方は、刑法各論の本の詐欺のところを読んでいただけたらと思います。このような状況ですので、実際にやってしまった場合に詐欺になるかどうかの判断はむずかしいところなのですが、いずれにしても、やってはいけないことですから、くれぐれも真似をしないようにしてください。
なぜこのようなことがあるのでしょう
このようなことは、法の抜け穴と呼んでもいいと思いますが、あえて抜け穴にしているんです。それは、今回のような、途中からの無銭飲食を犯罪として処罰しようとすると、サービスを受けておいてお金を払わない場合が全て犯罪になりかねないからです。弁護士を頼んで費用は分割払いにしていたけど、途中からお金がなくて払えなくなった場合は犯罪にする程ではないですね。それでは、犯罪にすべき場合をどう限定するかというと、それがとてもむずかしいんですね。ですので、一見すると不合理のようですが、途中からの無銭飲食は犯罪にならないことにしているんです。
ということで、少しむずかしい話になってしまいましたが、法律も色々と考えられてるんですよという話でした。