兵庫県議会の野々村竜太郎議員が日帰り出張したとして政務活動費から約780万円を支出していたことについての号泣会見(泣き乱している)が最近話題になっています。
また、野々村議員の辞職や再発防止を求める兵庫県への苦情・抗議などの電話が1日で約800件寄せられたとか、「辞職勧告に値する」というコメントが県議会最大会派の幹事長から出ているなどという報道もされています。
野々村議員の号泣会見それ自体については、法的な問題ではありませんが、仮に野々村議員がこのまま辞職しなかった場合に、県議会議員を強制的に辞めさせる方法があるかどうかについて、法的な観点でお話したいと思います。
まず、地方自治法において、地方議会の議決で除名という懲罰を科すことができる旨規定されています(地方自治法134条、135条)。
懲罰を科すことができるのは、地方自治法、会議規則、委員会に関する条例に違反した場合ですので(地方自治法134条)、それらを検討しないと正確なことは申し上げられないところですが、野々村議員の行為は現時点では本人は適切な支出と主張し、法令に直ちに違反しているわけではないようですので、除名を含む懲罰の対象にはなりにくいようです。
なお、最高裁判所判決昭和28年11月20日において、議員の議場外の行為であって、しかも議会の運営と全く関係のない個人的行為は懲罰の事由にならないと判示されています。
そこで、辞職勧告決議というものが県議会で出ることがあります。今回そのような事態になる可能性があるような報道があります。
ですが、辞職勧告決議は、法的な強制力はなく、辞職、つまり本人が自ら辞めるように勧告しているに過ぎません。
そうすると、結局、議員本人が自ら辞めるかどうかの問題に帰着し、議員本人が辞めなければそれまでです。
最後に、法的な強制力をもとに辞めさせる方法として、解職請求の制度があります(地方自治法80条、83条)。
リコールとも言います。
リコールは、その議員を選出した選挙区の有権者の一定数以上の署名(連署)を集めることで解職請求をすることができ、その選挙区での住民投票を行った上で過半数の同意があった場合に失職することになります。
解職請求をするのに必要な署名の数は、その選挙区の有権者数により異なります。
野々村議員を選出した選挙区は、西宮市選挙区であるところ、西宮市の人口は約48万人ですが、有権者数は40万人未満のようですので、40万人以下の有権者数の場合として、全有権者の3分の1以上の署名が必要です(地方自治法80条1項)。
野々村議員をリコールで強制的に辞めさせるためには、西宮市の有権者数の3分の1以上の署名を集めて解職請求をした上、西宮市の住民投票で過半数の賛成が必要になるということです。
本件でリコールをする場合には、既に数百万円の公金の不適切な支出が疑われているなかで、住民投票を行うことにより多額の公金を支出することになり、しかも失職するまでに相当の期間がかかるということで、リコールを行う意味合いが削がれてしまうように思われますが、それだけ選挙で選ばれた議員を辞めさせるのは簡単ではないということだと思います。
また、兵庫県議会の選挙は、平成23年4月に行われ、任期は4年ですので、また来年4月には任期満了の選挙がありますから、いずれにせよ任期はあと9か月しかありません。この点も、リコールという大々的な活動を躊躇させる要因になりそうです。
あとは、西宮市の有権者が決めることになります。
なお、以上述べたことは基本的に地方議会の議員のことです。
特に、国会議員は、リコールにより失職させられることはありません。つまり、リコールの制度は、国会議員にはありません。
その理由については、日本国憲法にあると言われています。日本国憲法で、国会議員についてリコールを認めるとも認めないとも明確に規定されていませんが、憲法43条で国会議員は全国民の代表と規定されており、選挙区の代表ではないこと等から、国会議員に対するリコールは現在の憲法上認められないと解する学説が有力です。