今回の債権法改正において、債権者代位権の相手方(第三債務者)の抗弁についての民法423条の4が新設されています。
新設の条文について
新設された民法423条の4の条文は、以下のとおりです。
債権者が被代位権利を行使したときは、相手方は、債務者に対して主張することができる抗弁をもって、債権者に対抗することができる。
以下において、この規定について解説したいと思います。
相手方(第三債務者)が主張できる抗弁
この民法423条の4は、債権者代位権を行使した場合の相手方の抗弁が認められるかについて規定したものです。
抗弁とは、簡単に言えば、請求を受けた者がその請求を排斥する事実を主張することです。
具体的には、貸したお金を返済しろという主張を受けた者が、「既に返済した」という弁済の抗弁や、「時効で消滅したことを援用する」という消滅時効の抗弁、「自分の債権と相殺する」という相殺の抗弁等があります。
そして、423条の4は、債権者代位権を行使した場合のことです。
例えば、債権者Pが、債務者Qの第三債務者Rに対する100万円の貸金返還請求権を行使したところ、第三債務者RはQに対して80万円の売買代金請求権を有していることから、「自分のQに対する債権と相殺し、20万円しか支払わない」という相殺の抗弁を債権者Pに対して主張することが認められるかということが問題になります。
この点について、古い大審院の判決で、このような第三債務者の相殺の抗弁を認めたものがあります。
そこで、債権者代位権の行使を受けた第三債務者は債務者に対して主張できる抗弁を債権者に対しても主張できるものと解されてきました。
このような判例実務の運用を明文化したのが423条の4になります。
したがって、423条の4は、これまでの運用を変更するものではなく、判例を明確化したものです。
相手方(第三債務者)は債権者に対する抗弁を主張できるか
423条の4に明記されていない問題として、例えば債権者Sが債務者Tの第三債務者Uに対する権利を債権者代位権として行使した場合に、第三債務者Uがたまたま債権者Sに対して同額の金銭債権を有していたとして相殺の抗弁を主張できるかという問題があります。
この点については、、債権者は債務者の財産を保全するために債務者の代わりに権利を行使しているに過ぎず、第三債務者は債権者にのみ主張できる抗弁を主張できないと考えられています。
債権者はどのような主張をすることができるか
他方で、債権者代位権を行使した債権者がどのような主張をすることができるかという点も、条文上明確ではなく、問題になります。
この点について、新たな条文もなく、基本的に改正前の判例実務の解釈を改正後も引き継ぐものと思います。
判例は、債権者代位権を行使した債権者は、債務者が第三債務者に対して主張できることを主張できるだけと解釈しています。
つまり、債権者が債務者の立場での主張を離れて独自の立場で第三債務者に対して主張することはできないと考えられています。
古い判例において、債権者Vが債権者代位権を行使したところ、第三債務者Xが債務者Wとの契約は虚偽表示のため無効であるという抗弁を主張したのに対し、債権者Vが自分は民法94条2項の「善意の第三者」であるという主張をしたものがあります。
この主張は、債務者Wの立場での主張ではなく、債権者V独自の立場での主張です。
大審院は、この債権者Vは「第三者」にあたらないとし、債権者Vの主張を認めませんでした。
したがって、判例は、債権者代位権を行使した債権者が独自の立場で主張をすることは認めていないものであり、あくまで債務者が主張できることしか主張できないと解釈しているものと思います。
ただし、423条の7で明文化された「債権者代位権の転用」の事例では、債権者が独自の主張をすることができるという説が有力です。