詐害行為取消しが認められたとき、受益者が債務者に対して反対給付の返還または価額の償還の請求ができる旨を規定する民法425条の2が追加されています。
民法425条の2の規定
民法425条の2は、以下のとおり規定されています。
債務者がした財産の処分に関する行為(債務の消滅に関する行為を除く。)が取り消されたときは、受益者は、債務者に対し、その財産を取得するためにした反対給付の返還を請求することができる。債務者がその反対給付の返還をすることが困難であるときは、受益者は、その価額の償還を請求することができる。
この規定について、これから説明したいと思います。
民法425条の2が想定している事例
債務者が唯一の財産である時価1000万円の絵画を300万円で知り合いのA(受益者)に売却したところ、債権者が詐害行為取消の裁判を起こして絵画を自分に引き渡すよう請求し、裁判所が詐害行為取消し及び債権者への引渡しを認めたとします。
その場合に、受益者Aは、債務者に支払った300万円を返金してもらえるかどうかが問題となります。
民法改正前の状況
民法改正前の判例は、詐害行為取消しの効果は債務者に及ばないとしていました。
そうすると、債務者との関係では、債務者による受益者への絵画の処分は有効なままですので、受益者が絵画を詐害行為取消しにより失ったとしても、受益者が債務者に対して支払った300万円の返金を請求できないことになりそうでした。
ただ、受益者が失った絵画が債権者らの債権の弁済に充てられて債務者の債務が消滅した場合には、その時点で不当利得返還請求権を行使する余地があると解されていました。
ですが、その時点では、もはや受益者が300万円を取り返すことは困難な状況でした。
民法改正後の状況
民法425条の2前段により、上記のような場合に、受益者は、債務者に対して支払った300万円の返還を請求できることが明記されました。
また、民法425条の2後段は、債務者がその反対給付の返還をすることが困難であるときは、受益者は、その価額の償還を請求できるものとしました。
これに関して、受益者が債務者に対する反対給付の返還請求権が履行されないかぎり、詐害行為取消しにより債権者へ絵画を引き渡す債務の履行を拒絶するという同時履行の抗弁権を主張できるかという問題があります。
その点について条文で明記されたものはありませんが、このような受益者の主張を認めると詐害行為取消権の実効性が損なわれること、受益者に対して反対給付の返還義務を負っているのは債務者であり、受益者ではないこと等から、同時履行の抗弁権は認められないものと一般的に解されています。
そうすると、結局のところ、絵画を取り返されてしまう受益者の300万円の返還請求権の実際の回収は難しい場合が多いことが予測されると思います。
なお、そのような観点から、民法改正審議の際に、受益者の反対給付の返還等の請求権について先取特権を付与して優先的な保護を与えることが検討事項とされました。
しかし、詐害行為取消権を行使した債権者よりも受益者が優先的に扱われるのは妥当ではないという意見が有力であったため、そのような優先的な保護を与えることは見送られました。
経過規定
民法425条の2は、改正民法の施行日である令和2年4月1日より後に詐害行為が行われた場合に適用されます。