詐害行為取消しの効力が及ぶ範囲について規定している民法425条が改正されています。
改正前の民法425条の条文
改正前の425条は、以下のとおりでした。
前条の規定による取消しは、すべての債権者の利益のためにその効力を生ずる。
この条文が今回の民法改正で変更になっています。
改正後の民法425条の条文
改正後の民法425条の条文は、以下のとおりになりました。
詐害行為取消請求を認容する確定判決は、債務者及びその全ての債権者に対してもその効力を有する。
以下、この425条について解説していきます。
改正前の425条の内容
民法425条は、詐害行為取消請求が認容された場合に、その確定判決の効力が及ぶ範囲について規定しています。
改正前は、詐害行為取消請求が認容されたことによる取消しの効力は「すべての債権者の利益のために」生ずると規定していましたが、債務者にもその効力が及ぶか否かについては明確ではありませんでした。
この点について、改正前の時点での判例は、取消しの効力は債権者とその相手方である受益者又は転得者に及ぶとし、債務者には及ばないと判示しました。
これをもって、詐害行為取消は、相対的取消であると言われていました。
判例によると、詐害行為取消請求を行った債権者と受益者等の間では詐害行為が無効となりますが、訴訟に関与していない債務者との間では取消しの効力が及ばず、依然として有効なものとして扱われることになります。
その結果、詐害行為を取消された受益者や転得者は、財産を返還することになるわけですが、対価として支払った金銭等の返還を債務者に対して請求することができないことになってしまいます。
そうすると、受益者や転得者にとっては、ただ財産を返還させられるだけの結果となってしまい、酷であるとの批判がありました。
この点が民法改正の際に議論になりました。
改正後の425条の内容
そして、今回の民法改正では、債務者に対して取消しの効力を及ぼすために、詐害行為取消請求を認容する確定判決の効力は債務者にも及ぶことに変更されることになりました。
他方、裁判手続に関与する機会が全く与えられていない債務者に対して判決の効力を及ぼすことになってしまうと手続上問題があるため、債務者に対して詐害行為取消請求の裁判手続に関与する機会を与えることになりました。
それにより新設された規定が、詐害行為取消請求の訴えを提起した債権者が遅滞なく債務者に対して訴訟告知しなければならないという民法424条の7第2項です。
そうして、債務者が詐害行為取消請求の訴訟に参加して、自己に有利な主張をすることが手続的に保障されることになりました。
どうでもいいという債務者は、訴訟に参加する必要はありませんが、後で自分に不利な結果が出ても甘受せざるを得なくなります。
改正後の425条により、債務者と受益者・転得者との間でも、詐害行為取消請求が認められた場合には、原状回復義務が生じることとなります。
経過附則
経過附則により、令和2年4月1日以降に行われた詐害行為について改正後の規定が適用され、それ以前の詐害行為は改正前の規定が適用されます。