今回の民法改正で、大きな議論があったのが、公序良俗に関する民法90条です。
改正前と改正後の条文の比較
大きな議論はありましたが、結果としては、形式的な改正に止まっています。
以下において、解説いたします。
改正前の民法90条は、「公の秩序又は善良の風俗に反する事項を目的とする法律行為は、無効とする。」という規定だったのが、改正後の民法90条は、以下のような規定になりました。
公の秩序又は善良の風俗に反する法律行為は、無効とする。
このように、改正前の条文に記載されていた「事項を目的とする」という言葉が削除されたものです。
「事項を目的とする」の削除
「事項を目的とする」という表現からの文言的解釈では、法律行為の内容が
公序良俗に反するかどうかが問題となりそうです。
ただし、公序良俗に関する判例では、法律行為の内容だけでなく、法律行為の動機や過程に鑑みて公序良俗違反を判断したものがあります。
例えば、賭博をするための貸金契約や、賭博後の弁済資金を貸す契約も、公序良俗違反に該当するものと解釈されています。
そのような裁判例の傾向を明確化するため、「事項を目的とする」という表現が削除されたのです。
暴利行為について議論するも、改正せず
それから、この民法90条については、民法改正の際に大きな議論となった論点があります。
それは、暴利行為に関するものです。
暴利行為は、相手方の困窮状態や軽率などに乗じて不当な利益を得る行為のことであり、これまでの裁判例で、公序良俗違反の一つとして判断が積み重ねられてきました。
例えば、金地金の先物取引について危険性を隠して知識のない主婦に執拗に取引を勧めた場合に、無効とされたものがあります。
民法90条では、このような暴利行為についての要件や判断基準が全く条文上明らかでないことから、条文に明記した方が良いのではないかという意見が出ました。
そして、法制審議会の中間試案のなかで、「相手方の困窮、経験の不足、知識の不足その他の相手方が法律行為をするかどうかを合理的に判断することができない事情があることを利用して、著しく過大な利益を得、又は相手方に著しく過大な不利益を与える法律行為は、無効とするものとする。」という案が示されました。
この中間試案に対し、暴利行為を明文化することについて積極的な立場からも、消極的な立場からも厳しい批判がありました。
判例法理が未だ形成途上にあり、現時点で暴利行為を明文化することによって今後の柔軟な判例法理の生成発展を阻害するおそれがあるという意見も出ました。
結局、合意形成が困難であるとして、暴利行為を明文化することは見送られました。
暴利行為の明文化が送られたことにより、従前どおり、暴利行為が公序良俗違反の一つとして無効になる場合があることが維持されています。
また、暴利行為の明文化について、施工後の状況を勘案して必要に応じ対応を検討することという附帯決議が衆参両院で行われています。
経過措置
施行日(令和2年4月1日)前に行われた法律行為については、改正後の90条ではなく、改正前の90条が適用されます。