詐害行為の取消しの範囲について規定する民法424条の8が、新しく設けられています。
424条の8の規定
424条の8は、以下のとおり規定されています。
1 債権者は、詐害行為取消請求をする場合において、債務者がした行為の目的が可分であるときは、自己の債権の額の限度においてのみ、その行為の取消しを請求することができる。
2 債権者が第424条の6第1項後段又は第2項後段の規定により価額の償還を請求する場合についても、同様とする。
この424条の8について、解説していきたいと思います。
詐害行為の取消しの範囲
424条の8が規定しているのは、債権者が詐害行為取消請求をした場合に、取消しが認められる範囲についてです。
改正前のルール
改正前は、424条の8のような規定はありませんでした。
つまり、取消しが認められる範囲について改正前の民法の条文上は明確ではありませんでした。
判例は、詐害行為の目的物が可分な場合、詐害行為取消権を行使した債権者の債権額の限度で詐害行為を取り消すことができるものとしていました。
可分な目的物の典型は、金銭です。
判例のこのような考え方からすると、詐害行為取消権を行使する債権者が自らの債権回収のために権利を行使しているという側面が判例も重視しているといえます。
改正内容
今回の改正において、この判例のルールを維持し、明文化することになりました。
したがって、この424条の8の新設による改正は、実質的なルールの変更を伴いません。
424条の8第1項
424条の8第1項では、債務者がした行為の目的が可分なときは、債権者の債権額の限度においてのみ、その行為の取消しを請求することができると規定されています。
目的が可分なときというのは、主として金銭に関する場合です。
例えば、債務者が受益者に金銭を贈与した場合、債務者が金銭債務の支払いをした場合、債務者が自己の金銭債権を免除した場合です。
具体的には、債務者Aが唯一の財産である2000万円の現金を息子のBに贈与した場合に、Aに対して1500万円の債権を有する債権者Cは、1500万円の贈与の部分だけ取り消すことができるということです。
それだけでなく、債務者の不動産や動産であっても、複数のものが詐害行為で流出した場合、債権者の債権額の限度においてのみ、取消しを請求することが認められます。
具体例としては、債務者Aが時価2000万円の甲土地と時価2000万円の乙土地しか財産を有してなかったところ、両方の土地を息子のBに贈与した場合に、Aに対して1500万円の金銭債権を有する債権者Cは、甲土地か乙土地の贈与契約のうちどちらか一方しか取り消すことができないことになります。
他方、債務者Aが時価1億円の丙土地しか所有していなかったところ、息子Bに贈与した場合には、債権者Cは、丙土地の贈与行為を全て取り消すことができます。
424条の8第2項
424条の8第2項は、受益者・転得者が財産の返還をすることが困難なとき(424条の6第1項後段、同第2項後段の場合)、債権者が請求することができる価額の償還請求の場合においても、債権者の債権額の限度においてのみ、その行為の取消しを請求することが認められることが規定されています。
価額の償還請求は、結局金銭が返還されることになりますので、目的物が可分な場合と同じような状況になるからです。
経過附則
経過附則により、詐害行為が施行日令和2年4月1日以降に行われた場合に、改正後の規定が適用されます。