転得者に対する詐害行為取消請求を規定した民法424条の5が新設されています。
民法424条の5の規定
民法424条の5の規定は、以下のとおりです。
債権者は、受益者に対して詐害行為取消請求をすることができる場合において、受益者に移転した財産を転得した者があるときは、次の各号に掲げる区分に応じ、それぞれ当該各号に定める場合に限り、その転得者に対しても、詐害行為取消請求をすることができる。
一 その転得者が受益者から転得した者である場合
その転得者が、転得の当時、債務者がした行為が債権者を害することを知っていたとき
二 その転得者が他の転得者から転得した者である場合
その転得者及びその前に転得した全ての転得者が、それぞれの転得の当時、債務者がした行為が債権者を害することを知っていたとき
以下において、本条について解説していきます。
転得者について
転得者とは
この424条の5は、詐害行為取消請求において、転得者がいる場合について規定しています。
424条の5の転得者とは、詐害行為によって財産の移転を受けた相手方(受益者)からさらに当該財産を取得した者をいいます。
その転得者からさらに当該財産を取得した者も、「転得者」にあたります。そこからさらなる転得者も「転得者」にあたります。以下、エンドレスに「転得者」になります。
例えば、債務者が唯一の財産である高級車を息子(受益者)に贈与し、その息子が恋人にその高級車を贈与した場合に、その恋人が転得者に該当します。
改正前の規定
今回の改正前は、転得者がいる場合について、民法424条1項ただし書きに以下のように規定されているだけでした。
ただし、その行為によって利益を受けた者又は転得者がその行為又は転得の時において債権者を害すべき事実を知らなかったときは、この限りでない。
このように、転得者が、債務者の行為が債権者を害することを知っていたことが要件であることが規定されていました。
そして、例えば、転得者が財産を譲り受ける相手である受益者が債権者を害することを知っていることが要件になるかについては、条文上明らかではありませんでした。
この点について、改正前の判例は、受益者が債権者を害することを知っていたことは必要ないとしていました。
このような判例は、相対的構成をとっていると言われていました。
つまり、詐害行為取消請求による取消の効果は、債権者と転得者のみで生じるものとされていました。
こうして債権者と転得者のみで取消の効果が生じることから、受益者が債権者を害することを知っている必要はないものとされていたのです。
今回の改正
今回の改正において、判例の相対的構成をとらず、受益者に対して詐害行為取消請求ができることが要件であることが規定されました(本条本文)。
これは、受益者が債権者を害することを知っていることが要件ということになります(424条1項ただし書き)。
そして、改正前と同様に、当該転得者が債権者を害することを知っていたことが要件である(本条1号、2号)と共に、転得者が他の転得者から転得した場合には、その前の全ての転得者が債権者を害することを知っていることが要件とされました(本条2号)。
こうして、当該財産の転得者がいる場合に、その途中の転得者の誰かが債権者を害することについて善意であれば、その時点で、当該財産についての取消請求は認められないことになりました。
これにより、取引の安全がより保護されることになりました。
こうして、判例の取扱いは変更されることになりました。
破産法の否認権について
また、本条に関連し、破産法上の否認権においては、二重の悪意が必要とされていました。
つまり、否認権の要件として、①転得者が債権者を害することを知っていたこと、②受益者が債権者を害することを知っていたこと、③受益者が債権者を害することを知っていたことを転得者が知っていたことが全て必要とされていました。
しかしながら、これは過剰な要件であるとの批判があり、今回の民法改正の本条で、①と②だけが要件となり、③が要件にならなかったことを踏まえ、破産法も民法と同様の内容に改正することになり、③の要件は削除されました。
これにより、二重の悪意は不要とされたのです。
経過規定
経過附則19条により、施行日令和2年4月1日より前に、詐害行為がされた場合には、改正後の条文は適用されないことになっています。