過大な代物弁済等の場合の詐害行為取消請求について規定している民法424条の4が新しく設けられています。
424条の4の条文
424条の4の条文は、以下のとおりです。
債務者がした債務の消滅に関する行為であって、受益者の受けた給付の価額がその行為によって消滅した債務の額より過大であるものについて、第424条に規定する要件に該当するときは、債権者は、前条第一項の規定にかかわらず、その消滅した債務の額に相当する部分以外の部分については、詐害行為取消請求をすることができる。
以下、この条文について解説します。
過大な代物弁済
本条は、過大な代物弁済がされた場合の詐害行為取消請求を想定しています。
本条の「債務者がした債務の消滅に関する行為であって、受益者の受けた給付の価額がその行為によって消滅した債務の額より過大であるもの」の典型が、過大な代物弁済になります。
代物弁済とは、弁済者が債権者との間で、債務者の負担した給付に代えて他の給付をすることにより債務を消滅させる旨を契約して、その弁済者が他の給付をすることです(民法482条)。
例えば、債務者Tが債権者Uに対して200万円の貸金返還債務を負っているところ、その代わりにTが所有する中古車を給付することを合意すれば、その中古車を給付することで貸金返還債務が消滅します。
過大な代物弁済というのは、Tが200万円の債務の代わりに給付した中古車が高級車で時価500万円だった場合のように、代物弁済の給付の価額が元々の消滅した債務より過大なときのことです。
過大な代物弁済をした債務者が債務超過のときには、客観的に債権者を害する行為に該当します。
あとは、債務者が債権者を害することを知っていたことや、受益者が債権者を害することを知っていたこと、債権者の債権が詐害行為の前の現認に基づいて生じていたこと等の424条の詐害行為取消請求の要件を満たす場合に、詐害行為取消請求が認められます。
ここまでは、基本的に改正前の運用と変わりありません。
改正後のルール
取消の対象は過大な部分だけ
改正後の424条の4は、過大な代物弁済で詐害行為取消請求が認められる場合に、過大な部分のみ取消の対象になるものとしました。
改正前は、過大な代物弁済で詐害行為取消請求が認められる場合の効果について、明確ではありませんでした。
ただ、判例の理論からすれば、詐害行為の全てを取り消すことが認められる可能性がありました。
そして、過大な部分しか取り消すことができないことが本条で明確になったものです。
なお、必ずしも代物弁済だけでなく、「債務の消滅に関する行為であって、受益者の受けた給付の価額がその行為によって消滅した債務の額より過大である」といえる場合には、本条が適用されます。
目的物が可分な場合
過大な代物弁済の目的物が、銀貨1000枚のように可分な場合には、本来の債務より過大な部分だけが取り消されて返還請求を受けることになります。
目的物が不可分な場合
過大な代物弁済が中古車1台のように不可分な場合は、「受益者がその財産の返還をすることが困難であるとき」(424条の6第1項)に該当します。
その場合には、債権者は、過大な部分の価額の償還を請求することができます。
424条の3との関係
過大な代物弁済が、424条の3が規定する支払不能状態での偏波弁済等が行われたことで詐害行為取消請求が認められる場合に該当するときは、424条の3により、その行為の全てが取消の対象になります。
したがって、424条の4は、424条の3に該当しない場合の規定です。
経過規定
改正民法の施行日である令和2年4月1日より前に詐害行為が行われた場合は、改正前の民法の適用を受けます。