偏波弁済、担保の供与等について規定する民法424条の3が新設されています。
民法424条の3の条文
民法424条の3は、以下のとおりの規定です。
1 債務者がした既存の債務についての担保の供与又は債務の消滅に関する行為について、債権者は、次に掲げる要件のいずれにも該当する場合に限り、詐害行為取消請求をすることができる。
一 その行為が、債務者が支払不能(債務者が、支払能力を欠くために、その債務のうち弁済期にあるものにつき、一般的かつ継続的に弁済することができない状態をいう。次項第一号において同じ。)の時に行われたものであること。
二 その行為が、債務者と受益者とが通謀して他の債権者を害する意図をもって行われたものであること。
2 前項に規定する行為が、債務者の義務に属せず、又はその時期が債務者の義務に属しないものである場合において、次に掲げる要件のいずれにも該当するときは、債権者は、同項の規定にかかわらず、その行為について、詐害行為取消請求をすることができる。
一 その行為が、債務者が支払不能になる前30日以内に行われたものであること。
二 その行為が、債務者と受益者とが通謀して他の債権者を害する意図をもって行われたものであること。
以下において、本条について解説します。
偏波弁済、担保の供与等について
民法424条の3は、債務者がいわゆる偏波弁済、担保の供与等を行った場合の詐害行為取消請求が認められる要件について規定しているものです。
例えば、債権者Qが貸金債権を有している債務者Rには、他にも貸金債権を有しているSがいたところ、Rは債務超過の状態のなかSだけに全財産1000万円を弁済し、ほぼ無一文になったとします。
この場合に、Qが、RのSへの1000万円の偏波弁済を詐害行為取消請求をすることができるかどうかという問題です。
改正前の判例
このような場合について、改正前の時点での最高裁判例(最高裁判決昭和33年9月26日)は、無資力(債務超過)の債務者が特定の債権者と通謀して他の債権者を害する意図をもって弁済したときには、詐害行為取消請求が認められるものとしていました。
破産法の否認権の場合
他方で、詐害行為取消権と類似の手続である破産法上の否認権においては、偏波弁済であっても、支払不能前及び破産手続き申立て前に行われたときは、原則として否認権の対象にならないことになっています(破産法162条)。
そうすると、上記判例は、破産法上の否認権が認められない事例でも詐害行為取消請求が認められる場合があることを認めていることから、破産法の否認権が認められる場合との不整合が生じていました。
そこで、その不整合を解消すべきとの意見が出ました。
424条の3第1項
今回の改正による民法424条の3第1項は、偏波弁済等について詐害行為取消請求が認められる要件として、以下の要件を全て満たすことを必要とすることになりました。
①債務者が支払不能の時に偏波弁済等が行われたこと。
②債務者と受益者が通謀して他の債権者を害する意図をもって行われたこと。
①支払不能については、具体的には、「債務者が、支払能力を欠くために、その債務のうち弁済期にあるものにつき、一般的かつ継続的に弁済することができない状態をいう。」と規定されています。
それから、偏波弁済以外にも、代物弁済や相殺等の債務の消滅に関する行為について適用されます。
また、既存の債務についての担保の供与も424条の3第1項の適用を受けます。
424条の3第2項
424条の3第2項は、偏波弁済・担保の供与等が、債務者の義務に属せず、またはその時期が債務者の義務に属しない場合には、以下の要件を全て満たすときには詐害行為取消請求が認められることを規定しています。
①偏波弁済・担保の供与等が支払不能になる前30日以内に行われたこと。
②債務者と受益者が通謀して他の債権者を害する意図をもって行われたとき。
これも、否認権に関する破産法162条の規定と同様のものです。
経過措置
施行日の令和2年4月1日より前に詐害行為が行われた場合は、改正前の民法の適用を受けます。